知的障害を持つ元看護助手・西山美香さんは、好きになった刑事に気に入られようと自白し、12年も刑務所に服役する冤罪を着せられることとなりました。
この記事では、西山美香さんの生い立ちや家族・兄弟、好きなってしまった刑事・山本誠さんと冤罪の真相について現在までの情報を詳しくまとめましたのでご紹介します。
「湖東記念病院事件」の概要…真犯人不明の冤罪事件だった
「湖東記念病院事件」は2003年に起きた事件で、同病院に勤務していた当時23歳の看護助士・西山美香さんが、取り調べを受けた山本誠刑事を好きになってしまい嘘の自白をして12年間服役した冤罪事件です。
西山美香さんは滋賀県長浜市の農業高校を卒業後に、別の病院の看護助手を経て湖東記念病院に勤務していた2003年のある夜に、同病院に入院していた当時72歳の男性患者が死亡しているところを発見。
第一発見者である看護師の岡田さん(偽名)は、この男性患者の人工呼吸器のチューブが外れていたと証言していました。
なお、人工呼吸器のチューブが外れるとアラームが鳴るようなシステムになっていますが、警察はアラームが鳴っていたにもかかわらず看護師らが気づかなかったことが男性の窒息死につながったと見て、業務上過失致死の疑いで捜査を進めていました。
事件発生当時に当直を務めていた西山美香さんは容疑者として取り調べを受けましたが、担当した刑事の山本誠さんのことを好きになってしまい、気に入られたい一心から「人工呼吸器のチューブを抜いた」と嘘の供述をし、2004年7月に殺人容疑で逮捕されました。
12年間刑務所で服役した西山美香さんでしたが、その後冤罪の可能性が高いとして裁判の再審請求を起こし、2020年3月に無罪が確定しました。
「湖東記念病院事件」詳細① 西山美香が山本誠刑事に恋して嘘の自白
西山美香さん、山本誠刑事を好きになり嘘の自白
刑事・山本誠さんの飴と鞭の使い分けにより西山美香さんは恋に落ちてしまった
週刊誌「週刊女性」は西山美香さんが出所した後にインタビューを敢行し、なぜ冤罪を自ら着るような自白をしたのかを取材しました。
西山美香さんは事件当時に彼氏がいなかったことを前置きし、取り調べ中の山本誠さんが高圧的で暴力的な態度から一変して、とても優しく接してくれたことから優しい男性だと錯覚し好きになってしまったと明かしました。
これは警察が取り調べでよく使う常套手段ですが、山本誠さんがイケメンであったことも西山美香さんが惚れてしまった要因になっていたようです。
完全に恋に落ちた西山美香さんは、起訴される2、3日前に調書を書いていた山本誠さんの手の甲をなでたり、別の日には「離れたくない、もっと一緒にいたい!」と抱きつくこともあったようです。
それでも山本誠さんは拒否せずに「頑張れよ」と励ましてくれ、それを優しさだと勘違いした西山美香さんはそのまま刑務所に12年間服役することとなりました。
山本誠刑事からの取り調べは強引だった
「湖東記念病院事件」で事件解明の手がかりとなるのが人工呼吸器のチューブが外れた際に鳴るアラーム音で、西山美香さんが意図的にチューブを外したのであればアラーム音が鳴っているはずであり、それを聞いたかどうかを山本誠さんは強引に決めつけていました。
男性刑事は迫った。
「私が“アラームは鳴っていなかった”と言うと、“そんなはずはない、嘘つくな”と机をたたき、密室なので怖かった。でも、“鳴っていた”と認めると急に優しくなった」と西山さん。
取り調べという精神的にきつい環境で、ときおり優しい顔を見せる男性刑事に魅かれた。
男性刑事は、「殺人罪でも執行猶予で刑務所に入らないでいいこともある」と話したり、混乱した西山さんが拘置所で規律違反をすると、「私が処分を取り消してあげる」などと持ちかけたという。
引用:週刊女性PRIME – 刑事に恋して殺人犯になった女性が語る「刑務所暮らし12年」と「彼への想い」
西山美香さんは普通の女性であり、男性からの恫喝に慣れているはずもないため、山本誠さんの暴力的な取り調べにすくみあがってしまったことでしょう。
精神状態が恐怖に支配されている中で、反対にとても優しくした山本誠さんの取り調べの手段に西山美香さんはまんまとはまってしまったと言う事ですが、西山美香さんが簡単に恋に落ちてしまったのには軽度の知的障害があったと言うことも強く関係していたようです。
「湖東記念病院事件」詳細② 西山美香が第1発見者を庇った驚きの理由
「湖東記念病院事件」において、西山美香さんよりも容疑を受ける可能性が高かったのが第一発見者の岡田さんでした。
岡田さんは男性患者の痰の吸引を怠っていたため、そのことで男性患者が痰を喉に詰まらせて死んだと勘違いしたことから嫌疑がかかるのを恐れて人工呼吸器のチューブが外れていたと嘘をついていた可能性が弁護士により指摘されていました。
西山美香さんは岡田さんの嘘に合わせるような供述をしていましたが、その理由はシングルマザーの岡田さんが逮捕されると大変だからと言う驚きの理由でした。
その嘘に合わせるような供述をした西山さんは、
「Aさんはシングルマザーで逮捕されたら生活できない。自分は正看護師ではないし、親と暮らしているし」と、お人よしな性格。しかし、退職したAさんが弁護団に協力することは一切なかった。
引用:週刊女性PRIME – 刑事に恋して殺人犯になった女性が語る「刑務所暮らし12年」と「彼への想い」
そもそも西山美香さんは逮捕されると言う意味もわかっていなかったと語っており、岡田さんをかばったのも単純に逮捕されると大変そうだからと言う曖昧な理由だったようです。
「湖東記念病院事件」西山美香の生い立ちと家族…兄2人は難関大学を卒業
西山美香さん、兄2人に劣等感を感じて育った
西山美香さんには2人の兄がいましたが、知的障害があり劣等生だった西山美香さんとは違い、2人の兄は難関大学を卒業していたためずっと強いコンプレックスと深い孤独感を抱えて生きていたようです。
コミニケーション能力も低く友達ができなかった西山美香さんが、唯一優しくしてくれた山本誠さんに恋をしてしまったのも無理もない話だったのでしょう。
Y刑事は優しかった。美香さんはそれまで成績優秀な2人の兄と比べられてコンプレックスがあったが、彼は美香さんの話をきちんと受けとめ「辛かったね。でも美香さんもかしこい方だと思うで」などと喜ばせるようなことを言った。それは取り調べなのだが美香さんはY刑事のことが好きになっていく気持ちを止められなかった。
「私の話を聞いてくれてほめてくれてとてもうれしかった。取調室だったけど一緒の時間を過ごすのが楽しくて。Y刑事のことを“白馬の王子様”と思っていました。輝いて見えたんです」
引用:文春オンライン – “獄友”は刑事に恋して冤罪となった人――青木惠子さん55歳の世にも数奇な物語
山本誠さんもまさか西山美香さんが知的障害者だと知らなかったことから、嘘の供述を引き出したことにも疑問を抱いていなかったのかもしれません。
事件の曖昧な状況と西山美香さんの知的障害から来る論理を理解できない知能と感情を制御できない性質がこの冤罪事件を生んでしまったと言えるでしょう。
西山美香さん、両親に放任されて育った
西山美香さんの両親は2人の兄が難関国立大学に行ったこともあり、教育にとてもお金がかかったことから共働きで必死に働いていたようです。
そのため、西山美香さんを構う暇もなくほったらかしにしていたことを事件後に悔いていたようです。しかし、両親は西山美香さんのことを愛していなかったわけではなく、事件が起きてからもずっと娘の事を信じていたと明かしています。
「湖東記念病院事件」西山美香は知的障害者…知能は9歳~12歳と判明
西山美香さん、軽度の知的障害者だった
愛知県一宮市にある一宮むすび心療内科の院長を務める小出将則さんは、西山美香さんの両親との面接や、西山美香さんの小中学校時代の作文や通知表などに目を通し、西山美香さんの知能検査を行いました。
その結果、西山美香さんは知能は9歳から12歳位であり、軽度の知的障害があると判明。また注意欠陥や衝動性が認められる注意欠陥多動症(ADHD)や、特定の物事への強いこだわりを示す自閉スペクトラム症(ASD)の強い傾向も認められたと報告しました。
小出将則さんによれば、西山美香さんはある程度の知的レベルがあるため周囲の人と区別がつきづらく、普通だと思われてしまう傾向があり、知的障害がある事を気づかれにくいため日常生活に支障をきたしやすいと診断していました。
西山美香さんは20までしか数えられない
確定判決では西山美香さんの知的障害が考慮されていなかった
裁判において西山美香さんの犯行であることを決定付ける要因として、人工呼吸器のチューブを抜いてから60秒後にアラームが鳴り始めると言うシステムから、チューブを引き抜いてから頭の中で60秒数え発覚を防いだ、と調書に書かれていました。
しかし、実は西山美香さんは頭の中で数えられる数の限度は20秒までで、指を折って両手を使っても30秒までしか数えられない知的障害を抱えていました。
この暗唱できないハンデについて、西山美香さんは将来再就職するときのことを考えると就職できないと困るためずっと秘密にしてきたことを証言していました。
一分を数えた、という供述は、再審開始を決定した大阪高裁(二〇一七年十二月)が「誘導の疑いがある」と指摘したが、弁護団長の井戸謙一弁護士は「数えられないのに数えたことにしたのは、捜査当局による作り話でしかない。明白な違法性があり、誘導とは次元が違う話だ」と指摘。再審の法廷で真相を追及する。
西山さんは「私は頭の中では、二十までしか数えられません。絶対自分からは、言っていません。裁判でも、きちんと言います」と証言。大きな数を暗唱できない自分の特性について、「将来、もし再就職の必要がある時に、仕事が見つからないと困る」と秘密にしてきたが、弁護団の方針に納得し、公表を決意した。西山さんは収監中の一七年四月に本紙と弁護団が協力して実施した精神鑑定で、軽度知的障害と発達障害が判明している。
引用:中日新聞 – 調書作文か 西山さん告白「60まで数えられない」
こうした西山美香さんの知的障害を含めて、あらゆる点から西山美香さんが男性患者を殺害したとするのは無理がある点が多くそのことが無罪を勝ち取ることにつながりました。
「湖東記念病院事件」西山美香の現在…2020年3月に無罪が確定
警察の強引な捜査が起こしたあってはならない冤罪事件
「湖東記念病院事件」において、西山美香さんが無罪を勝ち取るまでの出来事を以下に時系列で並べで紹介します。
2003年5月…湖東記念病院で男性患者のチューブが外れ窒息死した
2004年7月…西山美香は滋賀県警に任意聴取で嘘の自白をし逮捕、大津地検が起訴。
2005年11月…大津地裁が西山美香に懲役12年の判決を下し、最高裁で確定。
2010年9月…西山美香の弁護団が第一次再審請求するも却下。
2012年9月…第二次再審請求。
2017年8月…西山美香が出所。
2017年12月… 大阪高裁が再審開始を認め特別抗告。
2019年3月…再審開始。
2019年4月…検察側が有罪立証方針を表明。
2019年10月 …地検が有罪立証を断念。
2019年11月…滋賀県警が西山美香に有利な証拠を地検に未送致であった不正が発覚。
2020年3月…無罪確定。
この時系列を見るだけでも、滋賀県警がいかに腐っていたかがわかります。
最後に、12年も無罪の罪で刑務所に入っていた西山美香さんが、大阪高裁が再審開始を認めた2019年12月20日に記者会見の場で西山美香さんが語った以下の言葉を紹介して締めたいと思います。
「私が取り調べの刑事のことを好きになって、気に入ってもらおうと思ってどんどん嘘を言ってしまった。こんなことになるとは思わなかった」
引用:
週刊女性PRIME – 刑事に恋して殺人犯になった女性が語る「刑務所暮らし12年」と「彼への想い」
この西山美香さんの言葉から、取調中に感じていた事は好きになってしまった山本誠さんと離れたくないと言う事だけであり、嘘の供述をすることが刑務所に行くことを確定させてしまうと言う事について全く認識がなかったと言う事になります。
この西山美香さんの事件を機に、裁判における知的障害の有無は慎重に審議されるようになったことを願いたいところです。
「湖東記念病院事件」西山美香についてまとめると…
・西山美香さんは取り調べを受けた山本誠刑事に恋をして、嘘の供述をしたことから12年も刑務所に入ることになってしまった
・西山美香の兄2人は難関大学を卒業しており、強いコンプレックスと深い孤独感を抱えていた
・西山美香さんが男性患者を殺害する動機は見当たらず、また供述にも無理のある点が多いこと、知的障害があることなどから2020年3月に無罪確定した
この「湖東記念病院事件」を知ると、医療現場では不運な偶然が重なるとある日突然重大な事件の被疑者になってしまう可能性があるということがわかります。
こうした事件はめったに起こるものでは無いものの、慢性的な人手不足の医療現場では西山美香さんのような軽度の知的障害を持っている人も多いと思いますので、警察の横暴な取り調べを改めることが第2第3の西山美香さんを生まないことにつながるでしょう。