2016年に開催されたイベント「東京デザインウィーク」にて、日本工業大学の学生が出展した木製のジャングルジム「素の家」から火災が発生し、5歳男児が死亡する事故がありました。
この記事では、「神宮外苑イベント火災」の原因や過失、その後現在までの様子について詳しくまとめましたのでご紹介します。
この記事の目次
「神宮外苑イベント火災」とは
木製ジャングルジム火災により5歳の佐伯健仁くんが焼死
5歳の佐伯健仁くんが亡くなった痛ましい火災事故
「神宮外苑イベント火災」は、2016年11月6日に東京都新宿区の明治神宮外苑で開催されていたイベント「東京デザインウィーク2016」にて起こりました。
日本工業大工学部建築学科の学生が出展していた「素の家」と名付けられた木製のジャングルジムから突如火災が発生し、周辺にいた観客から「展示物が燃えている」と119番通報があり事故が発覚しました。
このジャングルジムは高さ約2.7メートル、幅約3.8メートル、奥行約3メートルの地面に木屑を敷き詰めたもので、白熱電球の投光器が中心部に設置されていたことから木屑が燃えて火災が発生しました。
出火当時、ジャングルジムでは3~4人の子供が遊んでいましたが、幼稚園児で当時5歳の佐伯健仁くんだけが逃げ遅れました。
火は約20分後に消し止められましたが、佐伯健仁くんは全身やけどにより死亡が確認されました。
なお、肺には煙を吸った形跡が無かったことから死因は焼死と発表されています。
また、佐伯健仁くんを助けようとした父親(当時44歳)と40代の男性も顔にやけどを負いました。
東京デザインウィーク大惨事∑(゚Д゚) pic.twitter.com/CBa1W4BEjI
— 會田圭 (@53775412) November 6, 2016
「神宮外苑イベント火災」の原因…日本工業大学学生は虚偽の説明も
神宮外苑イベント火災、原因は夜間作業用の白熱球投光器
事件直後、学生らはLED電球だけだと嘘をついた
木製のジャングルジムの中心部には多くのおが屑が散りばめられており、LED電球が設置されてライトアップされていました。
制作をした学生らは、出火当時LED電球のみを使用していたと虚偽の説明をしていましたが、その後現場検証が進むとともに白熱電球も持ち込んでいたことを明かしました。
学生らはあたりが暗くなったことでLED電球だけでは光量が足りず、ジャングルジムをより明るくするために夜間作業用に持ち込まれた白熱電球を設置していました。
捜査関係者によると、投光器は学生が夜間の作業用に持ち込んだ。学生らは調べに「あたりが暗くなったので、ライトアップのために作品内部に設置した」などと説明。投光器を設置した約20分後に出火し、数秒で全体に燃え広がったとみられる。
捜査1課は学生らが高温になる危険性のある投光器を、燃えやすい木くずを敷き詰めたオブジェの内部に設置した行為が、過失にあたると判断。主催者側についても、持ち込まれる機材の確認やスタッフによる見回りなどの安全管理態勢が不十分だったと結論付けた。
白熱電球がおが屑の中に設置されているという驚愕の事実が発覚したことに、ネット上では「有り得ない」「少し考えれば燃えるのはわかりきったこと」と批難の声が挙がっていました。
なお、その後敷き詰められていた木屑はおが屑ではなく、より燃えやすい木毛だったことが分かりました。
神宮外苑イベント火災、学生は虚偽の説明をしていた
天然の着火剤である木毛だった
火災を起こした学生2人や運営側は火災が起きた説明として「おが屑が燃えた」としましたが、実際には天然の着火剤でもある”木毛”だったことが分かりました。
木毛とはギフトの箱に敷き詰められているフワフワした木の屑のことで、かんな屑とも呼ばれますが、着火剤としても使用される木毛を展示の見栄えをよくするために使用していました。
白熱灯の熱で木毛が燃える可能性があることは素人でも分かることながら、当初その事実を隠すために学生2人は「LED電球しか使用していない」と虚偽の説明をしていました。
しかし、東京消防庁によればLED電球の熱でも木毛などの可燃物は出火する可能性があると警鐘を鳴らしました。
神宮外苑イベント火災の目撃情報とネットの反応
火は数秒で一気に燃え広がったと目撃されていた
火災現場にいた人々の目撃情報がいくつか寄せられており、ジャングルジムの近くに作品を出店していた男子大学生によれば、火は最初は小さかったものの、数秒で一気に燃え広がったと証言しており、木毛が爆発的に燃えた可能性が高いようです。
また、現場付近にいた30代男性によれば、火の手が強く近づけない状態だったため子供を救出することは難しい状態だったようです。
周囲にはプラスチックを燃やしたような化学物質のような臭いが漂っており、バチバチという作品が燃えながら壊れる音と、悲鳴のような声があがっていたと証言されています。
実際に中に入って遊ぶようにしているものなのに安全確認しなかったの?(使用しなくても、燃えたら危険
— 桜歌☁💗🐰 (@SmallPigeon) November 6, 2016
まさか、ライトで木屑が燃えるなんて考えてもいなかったとか?
>神宮外苑の催しで展示物燃える 5歳男児死亡、2人負傷:朝日新聞デジタル https://t.co/e7Pb1JMdYa
神宮外苑の火事の件は、亡くなったお子さんや、ご家族の方はもちろん、自分が作った作品で子どもの命を奪うことになってしまった学生さんもかわいそうだとも思うよ。とても重い十字架を背負ってしまった。教授、イベント主催者側などの指導するべき「大人」の罪は深いよ、ホント。
— n_waka (@n_waka) November 6, 2016
神宮外苑イベント火災、生々しい火災動画拡散に物議
ツイッターなどで火災動画が拡散された
「神宮外苑イベント火災」は比較的大きなイベントだったことから、火災現場に居合わせた人が撮影した動画などがツイッターに投稿され、瞬く間に拡散していきました。
動画の中には佐伯健仁くんが焼死している遺体が写りこんでいるものもあり、話題優先で拡散することに関与したユーザーらの倫理感が問題だとして物議を醸しました。
すでに今年で31回目を迎えるこの時期の定番のイベントでもあり、当日も多くの来場者がいたこともあってか、ネットには事故の動画や写真が数多くアップされている。この手の事件があった時にソーシャルメディアなどを介して、多くの現場の記録が出回るのはすでに日常茶飯事になっている。
とりわけ、今回の場合、少年を救出しようとしている瞬間の動画が出回っている。あまりにも痛ましい映像だし、少年の父親にとってあまりにも酷な記録映像だ。
(中略)
しかし、巷に気軽にあふれる動画も写真もだが、暴力性に無自覚に溢れすぎているようにも思う。そしてそうした動画や写真が溢れかえっている状況が当たり前ということに、慣れてきてしまっている自分がいることにも危うさを感じている。
「神宮外苑イベント火災」事故を起こした日本工業大学学長が謝罪
神宮外苑イベント火災、日本工業大学学長が責任を認める
大学側は全面的に非を認め謝罪会見を開いた
「神宮外苑イベント火災」の当日深夜と7日午前に、日本工業大学は謝罪会見を開き、学長の成田健一さんらは事実関係を認めた上で「責任は大学と学長である私にある」と謝罪をしました。
成田健一学長は火災を謝罪し、遺族に「大学としてできるだけのことをしたい」と述べた。また、白熱球の投光器がライトアップ照明として使われていたことを明らかにした。
設計では、中央上部に内部照明用のLED電球1個を取り付けることになっていたが、学生らの話から、ほかに設置時の夜間作業に使った白熱球の投光器もライトアップ照明として使っていたことが判明した。大学側は7日午前10時半から、再び記者会見を行い、成田学長は「大学の責任の下に出展しており、事故の責任は大学と学長である私にある」と述べた。
なお、成田健一さんは学生らが出展していた作品について、尖って危ない部分が無いかや、高さなどを確認していましたが、600点あまりある全ての作品のチェックが困難な状況にあったことも伝えました。
しかし、大学側が真摯に佐伯健仁くんが亡くなったことを受け止めていなかったことが、その後開かれたお疲れ様会で分かりました。
神宮外苑イベント火災、事故後にスタッフのお疲れ様会を開いていた
ボランティアスタッフをねぎらう「お疲れ様会」を開いた
「東京デザインウィーク」の運営は、イベントに参加してくれたボランティアスタッフをねぎらうために「お疲れ様会」を開きましたが、佐伯健仁くんが亡くなったにも関わらず労をねぎらい合う気にはなれないとツイッターユーザーがつぶやいています。
5歳の子が亡くなった神宮外苑の東京デザインウィークからお疲れ様会のお誘いメールが来たが、んなもん行く気になれるかよ pic.twitter.com/m1WOijRHSN
— 夏輝♨︎1/28垢開設10周年 (@_n0n_ficti0_nv_) December 8, 2016
また、このお疲れ様会は会費として4000円あまりを徴収していたことから、「この期に及んで商売をしている」とバッシングする声も多かったようです。
「神宮外苑イベント火災」のその後・現在① 日本工業大学学生2人らを書類送検
日本工業大学学生2人らを書類送検
学生2人と責任者らが書類送検された
2019年3月18日に警察は、火災を起こしたジャングルジムを制作した学生2人を重過失致死傷容疑で書類送検し、同大学の教員で責任者と、イベントの主催会社の男性社長らを業務上過失致死傷容疑で書類送検しました。(その後同大教員ら4人は不起訴処分になっています)
警察は学生2人が燃える可能性が高いとわかっている木屑に投光器を設置したことが過失に当たるとしており、責任者らについては現場に持ち込まれる機材の確認や、問題が発生していないか確認する見回りが不十分だったことが過失だったと発表しました。
神宮外苑イベント火災、故・佐伯健仁くんの両親がコメントを発表
日本工業大学学生2人は起訴となりましたが、同大教員ら4人は不起訴処分になったことを受け、故・佐伯健仁くんの両親がコメントを発表を発表しました。
この度の起訴の結果を受け、学生には起きた事故の事実にきちんと向き合うことを望むと同時に、主催者、大学等の責任者・監督者への責任が追及されないことに、納得することができず、心の整理がつきません。
それにより息子が犠牲になったこの事故が今後の対策に活かされず、風化されてしまうのではないかという不安と悲しみを覚えています。
日本工業大学と佐伯健仁くんの遺族が和解
佐伯健仁くんの両親は出展した日本工業大学と元大学生などに計約1億2千万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴していましたが、2021年2月11日、佐伯健仁くんの両親と日本工業大学が和解したことが報道されました。
和解の成立は20年12月3日付。大学が両親らに対し、同じ事故を繰り返さないため▽学生への安全教育を徹底する▽再発防止策を講じる――ことを約束しました。その上で、男児に「哀悼の意」を表して解決金を支払いました。金額は明らかにされていません。
「神宮外苑イベント火災」のその後・現在② 日本工業大学学生2人に禁錮10月・執行猶予3年の有罪判決
書類送検された日本工業大学学生2人ですが、2021年7月13日に東京地裁で禁錮10月・執行猶予3年の有罪判決が下されています。
重過失致死傷罪に問われた日本工業大の23歳と24歳の元男子学生2人=当時未成年=に対し、東京地裁は13日、禁錮10月、執行猶予3年(いずれも求刑・禁錮1年)の判決を言い渡した。下津健司裁判長は「わずかな注意を払えば火災の発生を十分に予見できた。過失は重大」と述べた。
「神宮外苑イベント火災」についてまとめると…
・神宮外苑イベント火災の原因は、高温になる危険性のある白熱球の投光器を、燃えやすい木くずを敷き詰めたオブジェの内部に設置したことである
・神宮外苑イベント火災はその後、日本工業大学学生ら関係者6人を書類送検した。学生2人は有罪判決になったが、イベント関係者4人は刑事罰は受けなかった。その後、佐伯健仁くんの両親は大学と元学生を提訴したが、大学側が佐伯健仁くんの両親に解決金を支払い、和解をした。
「神宮外苑イベント火災」は来場者を楽しませようとして開催されたイベントのため、当然火災を起こした学生2人を始め責任者らに悪意は無く、”ちょっとした不注意”が起こした事故でした。
しかし、佐伯健仁くんを失った遺族の悲しみは今後も癒えることはないため、学生2人はその重さを感じながら、生涯に渡って償いをしていくべきでしょう。