2020年で43回目を迎える『鳥人間コンテスト』ですが、新型コロナウィルスの感染拡大の影響でやむなく中止となってしまいました。チームみんなで作り上げた人力飛行機が見事に空を舞う姿を見るのは格別でしょう。
しかし、『鳥人間コンテスト』は墜落という危険も隣合わせで、2007年の第31回大会において九州工業大学の女性パイロット・川畑明菜さんが落下し重傷を負う事故が起きました。
『鳥人間コンテスト』事故の概要とその後・現在についてまとめましたのでご紹介します。
この記事の目次
「鳥人間コンテスト」とは
「鳥人間コンテスト(正式名称:鳥人間コンテスト選手権大会)」は、読売テレビ放送主権による人力飛行機の滞空距離と飛行時間を競う競技会です。1977年から始まり2020年で43回目を迎えますが、新型コロナの影響により運営から中止が発表されました。
人力飛行機とは文字通り人間の筋力のみを推進力とする飛行機で、Wikipediaでは以下のように説明されています。
多くの場合、自転車のような足漕ぎ式でプロペラを回して推進力を得て飛行する。原動機を使用した実用航空機と比較して低出力で飛行するため、抵抗を減らすための細長い主翼と簡素な構造による軽量な機体が特徴であり、飛行速度も航空機としては非常に低速である。風雨などの環境要因の影響を受けやすく飛行可能な気象条件は限定的である。
「鳥人間コンテスト」の参加規定は特になく、個人から大学のサークルなどまで幅広いチームが参加しています。
また、学生時代に参加したパイロットやスタッフが、その後卒業後に社会人になってから「鳥人間OB」としてチームを結成して参加することもあり、出身校を問わずその他学生チームに対してアドバイザー的な役割を果たすこともあります。
近年の「鳥人間コンテスト」においては、日本国外からの外国チームも増えており、また芸能人・有名人などが番組や事務所単位でチームを結成し参加。
2017年には「鳥人間コンテスト」を題材した実写映画『トリガール』が人気女優の土屋太鳳さんを主演にして制作・公開されました。
「鳥人間コンテスト」の事故…女性操縦士・川畑明菜さんが落下し重傷に
川畑明菜さんが事故に遭い裁判を起こした
「鳥人間コンテスト」では機体が離陸する際、パイロットは琵琶湖上に設営された高さ10mの「人力飛行機離陸用仮設プラットフォーム」から飛び立ち、チームメイトが機体を押して勢いをつけながらパイロットが足でペダルを漕いでテイクオフをします。
この大会で九州工業大学のサークル「KITCUTS」の操縦士を務めた川畑明菜さん(かわばた はるなさん・当時20歳)は、他のチームのパイロットと同じように大空に飛び立つはずでした。
しかし、川畑明菜さんの乗った機体は滑走中に左主翼が折れ曲がり、離陸して間もなく川畑明菜さんは機体から放り出されてしまい、およそプラットフォームから飛び出した瞬間に10mの高さから落下して湖面に叩きつけられてしまいました。
この事故により、川畑明菜さんは医師から「脳脊髄液減少症」の診断を受ける重症を負い、その後の生活に大きく影を落としましたが、川畑明菜さんが2013年4月に主催の読売テレビや所属していた九州工業大学などを相手取り裁判を起こしたことから事故の真相が明らかとなっていきました。
「鳥人間コンテスト」事故の裁判…被害者・川畑明菜さんがテレビ局や大学を相手取り提訴
川畑明菜さん、テレビ局や九州産業大を相手取り裁判闘争へ
地獄のような6年間を取り戻す裁判を起こした
湖面に墜落した川畑明菜さんはすぐさま救助隊に助けられました。メディカルチェックを受けましたが、外傷がなかったことと、問題なく行動が出来ていた為、そのまま福岡県に帰ることになりました。
しかし、川畑明菜さんは事故翌日から急激なめまいに襲われて歩くこともおぼつかない状態となり、その症状は緩和されず日を追うごとに重症化してしまい最終的には寝たきりとなってしまいました。
その後、2007年10月に川畑明菜さんは「脳脊髄液減少症」と診断されて入院することになりました。
この病気は解明されていない部分も多いですが、脳脊髄液が漏れてしまうことが原因で頭痛やめまい、耳鳴りなどの症状が起こる疾患で、川畑明菜さんは重症化したとみられていました。
こうした状態で川畑明菜さんは地獄のような6年間を過ごしたようで、事故直後は死にたいとさえ思っていたことを明かしています。
しかし、2013年4月に川畑明菜さんは東京に出てくることを契機に、「鳥人間コンテスト」主催企業の読売テレビや、かつて在籍していた九州工業大学、人力飛行機を制作したサークルの顧問とリーダーや設計責任者などに対して、総額4305万8800円の支払いを求める裁判を起こしました。
川畑明菜さんは裁判を起こしたことについて以下のようにインタビューで答えています。
「裁判になってしまったのは非常に残念です。ただ提訴の期限が迫っていたため、決意しました。訴える前には、テレビ局の方ともお会いしました。しかし『裁判をするとお互いのためにならないよ』などと言うばかり。今後の安全対策についてなど、私が満足するの話し合いはできませんでした。私は、なぜこんな事故が起きてしまったのかを知りたかった。それに今後、二度と同じことが起こらないようにしたいと思ったんです」
「今考えれば、とても人を乗せて飛ばせる機体ではなかったのでしょう。大会に間に合わせるために十分な飛行試験も行われず、荷重試験もできていませんでしたから……。事故直後は『あっ、飛んだのかな』と思った瞬間、機体から放り出されました。湖面に落ちたとき、全身に激痛が走ったのを覚えています」
鳥人間コンテスト参加者の意見と主張
川畑明菜さんが裁判を起こしたのは責任の所在を明らかにし”第二の自分”を出したくなかった
川畑明菜さんの事を批判的に言う人がいる一方で擁護する意見もあります。それは実際に競技に参加した鳥人間(コンテストに参加した人たち)側の人たちです。
外部からは事故は「乗ると言ったパイロットの自己責任」という論調が多い中、「パイロットが責任を負うか否かではなく、パイロット以外は無責任で良いのか」という意見です。
パイロットは墜落する危険性と隣合わせの為「危険があるなら飛ばない」ということは大前提としてあり、川畑明菜さんの事故も事前に「本当に大丈夫か」と聞いていたと言われています。
基本的にパイロットは自転車競技レベルで入賞するくらいの脚力をつけるため過酷なトレーニングに専念する必要があり、機体の制作には関わらないことが多いようです。
したがって、パイロットには機体が安全か危険か判断することは難しく、この事故の責任が川畑明菜さんだけにあるというのは違うと鳥人間側は主張しています。
川畑さんとしても補償というより、本来共同で責任を負うはずの人たち(当時のチームメイト・大学・顧問)に事故後6年の間、話し合いにすら応じてもらえないことから、裁判で責任の所在を明確にして、チームや大学には相応の慰謝料・賠償をしてもらい、主催の読売テレビにはしっかりとコンテストの管理をしてもらいたいという思いがあったようです。
「鳥人間コンテスト」被害者・川畑明菜さんはサイコパスと批判も
川畑明菜さんのツイッターなどでの言動が炎上した
テレビ局と所属サークル、大学を提訴した川畑明菜さんですが、一方ネット上では彼女の言い分とは違った面がクローズアップされ、その言動に関して彼女を「サイコパス」だと指摘する声も浮上して炎上していました。
それは川畑明菜さんがツイッターやブログなどを通じて投稿していた内容があまりに酷かったためだと言われており、その内容は概ね以下のようなものだったようです。
・本番直前の為、機体の修正が間に合わなかった。
※参加する団体は大学サークルが中心。航空サークルにとってこの大会は野球でいう『甲子園』みたいなものだそうです。ゆえに、どのサークルも一年以上かけて準備を行っており、グラム単位で設計された機体を3日前から修正するのは困難だった。
・修正が効かなかった為、機体の主翼が破損、墜落に至った。
・自らの取り組みが甘かったことで仲間との確執が生じた。
・6年後、欠陥機に乗ったことで後遺症が残ったとして、読売テレビ・大学の仲間・顧問・大学を相手取り提訴。
・8kgの体重オーバーは3日前にチームに報告しているので責任は制作側にあると主張。
・自らの取り組みが甘く、8kgもの体重オーバーを3日前まで隠していたことについては、自身のブログ内で、凄まじいトレーニングのせいでたった4週間で「筋肉だけが8kg増加」したことやそのトレーニングは研究段階のもので、宇宙飛行士も使わせて欲しいと言ってきたものであること、自宅の体重計が壊れていることは知っていたが、面倒で買い換えなかったなどと釈明。
・動けないほどの後遺症のはずが、Twitterやブログから1人で上京し、スナックホステスの傍 らコスプレをしてみたりカラオケを楽しんでいることが判明。
・Twitterではあたかも自分は東大と同じレベルの大学を出たかのように言い張る。
・社会人経験ゼロなのに経営のコンサルタントを名乗っている。
以上のようなTwitterやブログでの投稿や言動が、川畑明菜さんが批判される要因となったようです。
「鳥人間コンテスト」の現在と判決…2018年8月頃に和解していた
裁判は正確な日付は分からないものの2018年8月末頃、ちょうど「鳥人間コンテスト」のテレビ放送前後に『和解』という形で終わっているそうです。
終わっているにも関わらず公表されていないという事は『和解』の条件の中に公表しないということが含まれていたのではないかとの見方もあります。
一応乗り物系専門に行ってる立場から言わせてもらえば鳥人間コンテスト裁判の鳥人間側は自分の無知を人に押しつけてるだけにしか見えない。
— MEBALON (@mstd_tw) June 22, 2013
乗組員、パイロットとしてその乗り物に乗り込む以上その乗り物についてある程度理解しておくのは当たり前。結局その知る部分を怠ったから事故ったんだろうが。
鳥人間コンテストは操縦者の脳脊髄損傷事故あったのに未だに続いてるのが不思議なんだよな
— 群馬コンビ二マイスターニ郎 (@CONMAI39) April 14, 2020
「鳥人間コンテスト」事故についてまとめると…
・被害者の川畑明菜さんはテレビ局や九州産業大学を相手取り提訴し、その後2018年8月頃に和解したといわれている
・被害者の川畑明菜さんのSNS投稿内容や言動に対して、ネット上では辛辣な意見もあった
「鳥人間コンテスト」の2007年の事故は、自らが人力飛行機のパイロットとして飛ぶ事を夢見た川畑明菜さんに起きた、痛ましく辛い後遺症を負った事故でした。
治療とリハビリの甲斐あって、ほとんど動くこともできなかったところから、現在は8時間ほどは動けるようになったそうです。
2020年の「鳥人間コンテスト」はすでに中止が決定されていますが、主催するテレビ側には安全管理をしっかりと行い、今後、このような事故が起きないように対応してもらえる事を願うばかりです。