1990年5月12日に発生した女児殺害・遺棄事件であり、その犯人として逮捕された菅家利和さんが後に冤罪である事が判明した「足利事件」が話題です。
ここでは足利事件の概要や菅家利和さんが犯人とされる根拠となったDNA鑑定、冤罪確定後支払われた賠償金や、真犯人とされる「ルパン」や「藤田」などについてまとめました。
この記事の目次
足利事件は女児殺害・遺棄事件で国内を代表する冤罪事件
「足利事件」は、1990年5月12日に発生した女児殺害・遺棄事件と、その犯人として逮捕され無期懲役判決を受けて20年近く服役していた菅家利和さん(逮捕当時45歳)が、実は冤罪だった事が判明した一連の事件を指します。
犯人として逮捕され菅家利和さんは、裁判で無実を主張しますが認められず無期懲役が確定。しかし、菅家利和さんは獄中でも冤罪を訴え続け、支援者の地道な活動などもあり、逮捕から18年が経過した2009年10月にようやく再審が開始され、2010年3月に裁判所は無罪判決を下し管家利和さんの冤罪を認めました。
多大な冤罪被害をもたらしただけでなく、管家利和さんが冤罪で犯人とされた結果、「足利事件」の発端となった女児殺害・遺棄事件の真犯人が検挙されないまま事件が公訴時効を迎え未解決事件となった事についても強く問題視されています。
ここでは、国内を代表する冤罪事件となった「足利事件」についてまとめていきます。
足利事件の発端となった女児殺害・死体遺棄事件
1990年5月12日に栃木県足利市のパチンコ店から、父親に連れられて来て1人同店の駐車場で遊んでいた松田真実さん(当時4歳)が何者かに連れ去られ、翌13日の午前中に近くを流れる渡良瀬川の河川敷(中洲とも)で遺体となって発見されました。
遺体は全裸で遺棄されており、川の中から被害者が身につけていた赤いスカートと半袖シャツが発見されました。半袖シャツからは犯人のものと思われる体液が検出されています。
松田真実さんの遺体から約1年半後の1991年12月2日、松田真実さん殺害の犯人として当時45歳だった無職・管家利和さんが栃木県警に逮捕されました。
実は、松田真実さんの殺害事件が起こる以前から、その事件現場の半径20キロ円内で女児が失踪し、その後遺体で発見される事件が頻発していました。
警察は管家利和さんがその一連の幼女殺害事件の犯人だと疑い、松田真実さん殺害事件の他に2件の女児殺害容疑でも管家利和さんを逮捕しています。ただし、この2件の殺人容疑は証拠不十分で不起訴となっています。
管家利和さんは、松田真実さん殺害遺棄事件発生当時は幼稚園バスの運転手として働いていましたがその後解雇され、逮捕時には無職でした。この解雇の理由は、警察の内偵捜査に気がついた幼稚園経営者が怖気付いたためと言われています。
ただし、当時の下野新聞の報道では「バスの運転中に他の車が割り込むと、窓を開けて怒鳴りつけるような事があったので解雇した」との幼稚園関係者のコメントが掲載されており、本当のところはよくわかりません。
足利事件で菅家利和が逮捕された根拠はDNA鑑定
出典:https://aruconsultant.cocolog-nifty.com/
菅家利和さんの逮捕理由は、遺体発見現場で見つかった被害者の半袖下着に付着していた犯人のものと思われる体液と、管家利和さんの捨てたゴミ袋の中から押収されたテッシュペーパーに付着していた体液が、DNA鑑定の結果一致した事でした。
逮捕後、警察は念のために菅家利和さんの血液を採取し再びDNA鑑定を行なっており、これも一致したと発表されています。
ただ、当時はDNA鑑定が警察で導入されたばかりであり、その精度は現在に比べてかなり低く、DNA鑑定を担当する技官の技術もまだ未熟だったと言われています。
一部マスコミからは、この足利事件での逮捕や裁判でDNA鑑定の結果が重要視されたのは、当時DNA鑑定の全国配備を目指していた警視庁の思惑があったのではないかと疑う声なども出ています。
足利事件の裁判で菅家利和は一転して無実を主張も有罪判決確定
菅家利和さんはその後、裁判で無期懲役の有罪判決を受けています。この有罪判決には菅家利和さんの自白が大きく影響しました。
菅家利和は警察の厳しい取り調べに自白
菅家利和さんは逮捕後、警察の取り調べで自分が松本真実さんを殺害したと自白しています。後に菅家利和さんは警察に髪を掴まれたり、蹴られたりしたため、思わず虚偽の自白をしてしまったと話しています。
菅家利和さんは検察の取り調べでも犯行についてスラスラと自白をし、これが決定打となって殺人・死体遺棄容疑で起訴される事になりました。
裁判では無実を主張も認められず有罪判決確定
菅家利和さんは裁判でも最初、犯行について自白しています。しかし第6回公判で突然無実を主張し始めます。その後も管家利和さんは、再び罪を認めては、改めて無実を主張するなど、罪状認否を二転三転させたのです。
裁判官に「無実であるならばなぜ作り話の自白をするのか?」と問われると菅家利和さんは「喋っちゃったんです、つい」などと答えています。
当初のDNA鑑定結果が信頼度の高い物的証拠と見られていた事に加えて、菅家利和さんの主張が公判の中でコロコロ変わった事なども影響したのか、この無実の主張は認められず、2000年7月17日に管家利和さんに無期懲役の有罪判決が確定しました。
足利事件の犯人とされた菅家利和は再DNA鑑定の結果冤罪が確定
無期懲役が確定した菅家利和さんは千葉刑務所に服役しますが、獄中からも自身の無実を訴え続けました。
この菅家利和さんの訴えを受けて、日本テレビ記者の清水潔さんや日本弁護士連合会などが再審を求める運動を展開しました。清水潔さんは、2008年1月から日本テレビの報道特番「ACTION」で、管家利和さんの冤罪の可能性を指摘するキャンペーン報道を大々的に開始し、これが世論に大きな影響を与えました。
そして2008年12月、東京最高裁は再びDNA鑑定を行う事を決定し、翌2009年2月、検察側、弁護側がそれぞれ指名した鑑定人2名によるDNA鑑定が行われました。
2009年4月、弁護側推薦の鑑定人が「不一致の部分が多く同一人物のものではない」との鑑定結果を発表し、検察側推薦の鑑定人も「一致部分が非常に少なく、同一人物のものではありえないと言っても過言ではない」との鑑定結果を発表。
このDNA鑑定結果により、菅家利和さんが犯人とされた根拠が崩れ、冤罪だった事が確定的となりました。これを受けて、菅家利和さんは2009年6月4日に千葉刑務所から釈放されています。
そして、2010年3月26日に宇都宮地方裁判所で開廷された再審の判決公判にて菅家利和さんの無罪判決が確定しました。
菅家利和には知的障害があったとの報道も
無実であったにもかかわらずなぜ菅家利和さんが警察や検察の取り調べや裁判の中で自身の犯行を自白したのかに疑問を抱く人が冤罪確定後にも多く出ていました。
これについては、管家利和さんが軽度の知的障害を持っている事が関係しているのではないかと見る向きもあるようです。
週刊誌「FRIDAY」2000年3月24日号に掲載された記事で、管家利和さんのIQは「77」ほどで軽度の知的障害を持っていた事や、小学校や中学校の内申書に「意志薄弱」、「服従する傾向が顕著」と書かれていた事などが報じられています。
この事から、管家利和さんは警察による激しい取り調べから早く逃れたい一心で、後先考えず虚偽の自白をしてしまったとの見方が出ています。
また、裁判でも自白を続けた理由も、周りから追及されるとそれに追従してしまうという管家利和さんの小・中学生時代から指摘されていた性格的傾向が関係していたと考えれば納得がいきます。
足利事件での冤罪による菅家利和への賠償金(刑事補償金)は約8千万円
足利事件で冤罪によって逮捕され、釈放されるまでの17年半にもわたって自由を奪われた菅家利和さんに対し、国から賠償金(刑事補償金)として約8000万円が支払われています。
栃木県足利市で1990年、女児が殺害された足利事件で、宇都宮地裁(佐藤正信裁判長)は13日、再審無罪となった菅家利和さん(64)に対し、刑事補償法に基づき、国が補償金約8千万円支払うとの決定書を交付した。
この賠償金約8000万円は逮捕から釈放までの日数に1日あたり1万2500円をかけて算出された金額だという事です。菅家利和さんはこの賠償金額について「額については妥当だと思っている。」とコメントされています。
菅家利和さんはこの賠償金の一部を、再審を支援した日本弁護士連合会に寄付されたという事です。
足利事件の真犯人① 「ルパン」に似た男
菅家利和さんは足利事件での松田真実さん殺害の犯人ではない事が確定しましたが、それでは真犯人は誰なのか?という事が問題になります。
実は、1979年から1996年にかけて、松田真実さんが殺害された地域の半径20キロ円内で、松田真実さんを含めて実に4件の女児が誘拐殺害される事件と、女児が誘拐され失踪したままになっている事件の合計5件もの事件が発生しています。そして、この全ての事件で犯人が捕まっていません。
上の事件のうち、なんと3件が松田真実さんと同様に河川敷で遺体が発見されており、同様にパチンコ店から誘拐されたケースも3件あるなど類似点が多く、この一連の事件の犯人が同一である可能性が指摘されています。
菅家利和さんの冤罪を疑い、独自にその真相解明調査を行った日本テレビの記者である清水潔さんは、著作「殺人犯はそこにいる」の中で、独自の取材でこの女児誘拐・殺人の犯人が漫画キャラクターの「ルパン三世」に似た男である事を掴み、この男の氏名や住所を特定するところまでたどり着いた事を明かしています。
なんと清水潔さんはこのルパン似の真犯人への直撃取材を敢行してその様子を著作の中で明かし、さらには独自でこの真犯人ルパンのDNA鑑定を行い、しかもそれが松田真実さんの半袖シャツに付着していた体液のDNAと一致したとまで書いています。
さすがにこれだけ決定的な証拠があれば、警察も真犯人逮捕に向けて動かないわけにはいかないと思うのですが、なぜかそうした動きは出ておらず、この点に少し嘘臭ささを感じてしまいます。
ただ、警察が動かないのは、このルパンを真犯人として逮捕すると警察の責任が再び追及される事になり、他の冤罪が疑われている事件にも影響が及ぶからではないかとする見方もあるようです。
足利事件の真犯人② パチスロの藤田
雑誌記者の小林篤さんという方は、2001年に発表した「幼稚園バス運転手は幼女を殺したか」という本の中で、真犯人は当時パチプロの住所不定の男「藤田」である事をほのめかしており、この「藤田」こそが、清水潔さんがいう真犯人「ルパン」であるとする説もあります。
確かに、「殺人犯はそこにいる」と「幼稚園バス運転手は幼女を殺したか」を読むと、「ルパン」と「藤田」は同一人物の可能性が高いように感じられます。
ただ、この「ルパン」や「藤田」が本当に何者なのかまでは本を読んだだけではよくわかりません。
足利事件の真犯人③ 横山ゆかりさん失踪事件の重要参考人の男
1996年7月7日に群馬県のパチンコ店で当時4歳だった横山ゆかりさんが行方不明になる事件が発生しました。群馬県警はこのパチンコ店の防犯カメラの映像を公開しており、その映像には中年の怪しい男が、横山ゆかりさんに話かけている様子が残されていました。
この男こそが、足利事件やその他の女児誘拐殺人・遺棄事件の真犯人である「ルパン」や「藤田」だと言われています。また、この男が足利事件の時に松田真美さんと思しき女児の手を引いているのを目撃された男と似ているとの情報もあり、関連が強く疑われています。
まとめ
今回は、1990年5月12日に発生した女児殺害・遺棄事件であり、その犯人として逮捕された菅家利和さんが無実であった事が判明し冤罪事件となった「足利事件」についてまとめてみました。
足利事件では、導入されたばかりだったDNA鑑定によって管家利和さんが犯人として逮捕され、無期懲役の実刑判決が確定しました。
しかし、菅家利和さんは獄中から無実を訴え続け、逮捕から20年近くが経過した2009年に、改めてDNA鑑定が行われ犯人と別人である事が確定し冤罪だった事が証明されました。
裁判所や検察は管家利和さんに謝罪し、国から約8000万円の賠償金(刑事補償金)が支払われています。
足利事件の真犯人は、漫画キャラクターの「ルパン三世」に似たパチスロの「藤田」という男だち言われており、1996年に発生した横山ゆかりさん失踪事件の犯人と同一人物ではないかとする説も出ています。