2016年4月にパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から大量に流出した内部文書、パナマ文書。
この記事では、パナマ文書にあった日本人リストや、「租税回避地=タックスヘイブン」の仕組み、問題点やその後について詳しくまとめました。
この記事の目次
パナマ文書やタックスヘイブンの仕組みについて
パナマ文書とは
租税回避行為に関する一連の機密文書
「パナマ文書」とは1970年代から流出する2016年4月までの間にパナマにある法律事務所「モサック・フォンセカ」によって作成されていた租税回避行為に関する一連の機密文書のことです。
約40年間作成が続けられてきたパナマ文書に記載されているタックス・ヘイブンの総数は1150万件と言われており、主だった租税回避地として知られるパナマ、英領バージン諸島、米ネバダ州、デラウェア州、香港など21地域、法人数は約21万4000社、登記されている人物は約36万人におよぶと言われています。
パナマ文書に記載されている人物は各国の首相やそれに準ずる政治家、著名な企業の代表、芸能界やスポーツ界の著名人など多岐に及びます。
タックスヘイブン(租税回避地)の仕組み
産業を持たない地域には重要なタックス・ヘイブン
「タックス・ヘイブン(租税回避地)」とは法人の課税率が大幅に優遇されている、もしくは免除されている地域や国のことであり、「低課税地域」と呼ばれることもあります。
タックス・ヘイブンは経済競争力のある産業を持たない地域や国にとっては重要な戦略であり、税制の優遇措置を設けることで海外から多くの企業や富裕層を受け入れ、法人税や手数料の歳入、雇用の創出を目的としています。
アメリカ合衆国デラウェア州などは「世界最悪のタックス・ヘイヴンである」と評されるほどですが、日本で一般的にタックス・ヘイブンと聞いて思い浮かぶ国は香港やシンガポールでしょう。
タックス・ヘイブン自体は違法ではないものの、その性質から違法に利用されることが多く問題点が指摘されてきましたが、その最たる事例が流出したパナマ文書により発覚した各国の要人達の汚職でした。
タックスヘイブンの問題点~貧富の格差の助長や犯罪の温床となることも
貧富の格差を拡大するタックス・ヘイブン
パナマ文書では各国の首脳や要人などの名前がリストアップされ一時世界は騒然としましたが、一般的にタックス・ヘイブン自体に違法性は無く日本の有名企業も多くパナマ文書にリストアップされていました。
企業にとって節税は経営上で非常に重要なことであり、違法にならないレベルで様々な節税対策がされています。
その最たる節税がタックス・ヘイブンであり、節税で浮いたお金がさらなる投資に回されて企業が発展してきた側面は否定できないでしょう。
タックス・ヘイブンの問題点については主に以下のようなものがあります。
祖国に税金が支払われない問題点
タックス・ヘイブンをしている企業には現地に事業を行う実体がないペーパーカンパニーが多く、祖国に税を収めないという事実は感情的な面から考えるとネガティブな意見も多いでしょう。
犯罪に利用される問題点
また、タックス・ヘイブンの秘匿性を利用して犯罪組織がマネーロンダリングに利用することが後を立たず、犯罪で得た資金が洗浄されてしまうことは国際社会で問題視されてきました。
貧富の格差が広がる問題点
一般庶民が真面目に働いて真面目に納税している中で、企業の社長や政治家、高級官僚など裕福層がタックス・ヘイブンをすることで大幅な節税をし、祖国に税金を納めていなかったことになります。
つまり、消費税などの増税に喘ぐ一般庶民が血税により富裕層らを支えている構図になり、貧富格差が一層広がっていくことが大きな問題でしょう。
パナマ文書に記載されていた海外の要人と日本人リスト
パナマ文書に記載されていた日本人リスト
財務省の官僚も日本人リストに入っていた
パナマ文書にリストアップされていた全世界の約36万人の中に、日本人は716人が入っていたことがNHKの調査により明らかにされました。
NHKがデータを手作業で調べ直したところ、716人の日本人の名前を確認。私立大学の理事長、著名な音楽プロデューサー、漫画家、元暴力団員や脱税や詐欺の罪で過去に摘発された人物などがいたという。一方、国会議員の名前は確認できなかったとした。
もちろん、前述のようにタックス・ヘイブンに法人を設立したからと言って違法な脱税をしているわけではないため咎められるわけではありませんし、海外の企業とのビジネスの都合上でタックス・ヘイブンの利用を求められるケースもあるため完全にケースバイケースとなります。
パナマ文書が報じられた時に日本人リストの一部として名前が挙がっていたセコム創業者の飯田亮さんや、UCC上島珈琲グループCEOの上島豪太さんなどは「租税回避が目的ではない」とコメントしていました。
なお、パナマ文書の日本リストに入っていた他の有名人としては、ソフトバンクグループ代表取締役会長の孫正義さんや、楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史さん、タレントではアグネス・チャンさんなどが入っています。
財務省の高級官僚らの名前がパナマ文書に掲載されていたことについて、消費税増税を推し進めてきた官僚の名前が軒並み並んでおり、自身らは節税で蓄財して国民から血税を巻き上げる構図が露呈し批判が噴出しました。
NHKの発表では日本の国会議員の名前は無かったということですが、”忖度”した可能性もあるのかもしれません。
パナマ文書に記載されていた日本企業リスト
海運業の会社はタックス・ヘイブンの利用が多い
パナマ文書で公開された日本の企業リストの一覧には以下の企業の名前がありました。
・バンダイナムコ
・バンダイ
・シャープ
・サンライズ
・大日本印刷
・大和証券
・ドリームインキュベータ
・ドワンゴ
・ファストリ
・ファーストリテイリング(ユニクロ)
・ジャフコ
・ソニー
・やずや
・みずほFG
・三井住友FG
・JAL
・石油資源開発
・丸紅
・三菱商事
・商船三井
・日本製紙
・双日
・オリックス
・三共
・パイオニア
・ホンダ
・東レ
・日本郵船
・大宗建設
・ドリテック
・ジー・モード
・化粧品のトキワ
・千代田リース
・アーツ証券
・山一ファイナンス
・UCC
・伊藤忠
・セコム
・ソフトバンク
・楽天
これは主だった有名企業の一部であり、他にも中小企業を合わせてまだまだ多くの企業の名前が連ねていると思います。
パナマ文書の海外の代表的な要人リスト
各国要人の周辺人物の名前がリストに挙がっていた
ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席、イギリスのキャメロン首相などの名前も報道されましたが、本人らの名前がパナマ文書に載っていたわけではなく、資産を管理していたと思われる周辺人物の名前が記載されていました。
こうした事情を前提に、パナマ文書によりタックス・ヘイブンの利用が疑われた各国の要人は以下の通りです。
習近平(中国国家主席)
李鵬(中国元首相)
デービッド・キャメロン(イギリス首相)
サルマーン・ビン・アブドゥル・アジズ(サウジアラビア国王)
アサド(シリア首相)
グンロイグソン(アイスランド首相)
ナジブ・ラザク(マレーシア首相)
なお、パナマ文書が世界で報じられて全リストが公開された時、中国では習近平さんの親族がリストアップされていたため報道規制がされ、ネットでも関連語句は検索不可能になっていました。
ロシアでは「パナマ文書は米国の陰謀」だとして責任転嫁をし、ウクライナでは大統領自ら「問題ない」と開き直っていました。
日本では「日本政府として文書を調査する考えはない」と発表し、追求逃れをしたことに批判が殺到しました。
なお、海外の芸能人やスポーツ選手で有名なところでは、アクションスターのジャッキー・チェンさん、最高峰のサッカー選手であるリオネル・メッシさんなどがパナマ文書に名前が掲載されていました。
パナマ文書と消えた年金事件~盗まれた個人情報で一般人も巻き添えに
パナマ文書により消えた年金2000億円が明らかに
消えた年金2000億円もパナマ文書で暴かれたと話題に
NHKの取材により、「消えた年金2000億円」で話題となったAIJ投資顧問の元社長・浅川和彦が、タックス・ヘイブンにあるペーパーカンパニーを利用し株価操作を行っていたことが明らかになりました。
AIJは地方の企業や団体から厚生年金基金として2000億円以上の資金を集めていましたが、2012年にその資金のほとんどが消失し行方がわからなくなっており、逮捕された浅川和彦は「年金はファンドの範囲内での返金となる」とほとんど返金が不可能であることを発表、その後15年の懲役刑に現在も服しています。
消えた年金2000億円の返金が絶望しされていましたが、2016年にパナマ文書が公開されたことで「消えた2000億円はパナマにある可能性がある」と返金が実現する可能性が囁かれていました。
しかし、現在までに2000億円が発掘されて被害者らに返金されたという話は出ていません。
パナマ文書で一般人が犯罪に巻き込まれていたことが発覚
いつのまにかパスポートの情報が利用されていた
パナマ文書が公開されたことで、全く関係の無い一般人の名前がリストに入っていたことが発覚し、いつの間にか個人情報が犯罪組織に利用されていたことが分かりました。
少なくとも3人のタックス・ヘイブンとは無関係な日本人の名前がペーパーカンパニーの代表者として登記されており、その会社では違法な出会い系サイトが運営されていました。
被害者は東京の飲食店店員や、香川県の会社員など男女3人で、個人情報はタイを訪れた際にパスポートの写しが何らかの方法で盗まれたようです。
知らない間に犯罪に巻き込まれていた事実に、一般人もパナマ文書に全く無関係ではなかったことが分かり不安を感じる人も多かったようです。
パナマ文書のその後~タックスヘイブン対策税制の規制強化へ
国税局も富裕層の税逃れ対策を強化
日本でも報道が規制されたため国民はすぐにパナマ文書の話題を忘れてしまいましたが、国税庁などはパナマ文書により発覚した31億円あまりの所得税申告漏れの回収に乗り出しました。
国税庁は富裕層の海外資産の監視に本腰を入れ、2017年度の税制改正においてタックスヘイブン対策税制が強化されました。これにより海外に資産が移動されても課税できるようになっています。
財産を国外に移動して、その年の12月31日時点で国外財産が5,000万円を超える場合には、国外財産調書を国税庁に提出することが義務付けられています。国外財産の種類、数量、価額などを記載した国外財産調書を、翌年の3月15日までに所轄の税務署長に提出します。正当な理由もなくこれを拒否すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
パナマ文書について総まとめすると…
・タックスヘイブンの問題として、貧富の格差の助長や犯罪の温床、祖国に税金が支払われない点があげられる
・パナマ文書流出後に国税局はタックスヘイブン対策税制が強化、富裕層の海外資産の監視に本腰を入れている
2016年に流出し世界を震撼させたパナマ文書について詳しく総まとめしてきました。
パナマ文書は全世界の富裕層がタックスヘイブンにより富を一極集中していることが明らかとなり、貧富格差の社会が浮き彫りとなりました。
本来は祖国に納税するべき所得税などの未納合計額は2200兆円以上だと言われています。