アイドルグループの「たこやきレインボー」の春名真依さんが「えたひにんみたいなやつ」と発言し、「えたひにん 」という言葉が注目されています。
この記事では差別用語で放送禁止用語とされている「えたひにん」の意味や語源、多い地域、漢字での書き方などについてまとめました。
この記事の目次
えたひにんとは歴史的に存在する被差別身分を指す差別用語
「えたひにん」とは、江戸時代に「士農工商」の下の身分として置かれた被差別身分を指す言葉で、社会的な権利や職業、居住地などを制限される厳し差別を受けてきたとされています。(現在は違う見方が有力になっているが後述)
明治時代(1871年)に明治政府から「解放令」が出されて行政上は平民化されたものの、その後も人民の間で差別意識が根強く残り、近代に至るまで不当な差別を受け続けているとされて、長く社会問題とされてきました。
えたひにんと読み間違えでアイドルグループメンバーが活動自粛に
アイドルグループ「たこやきレインボー」のメンバーの春名真依さんが、2021年1月23日の、たこやきレインボー公式Youtubeチャンネル「たこやきレインボーofficial」での生配信中に、不適切な発言をしたとして当面の間活動を自粛する事が発表されました。
2021年1月23日(土)にたこやきレインボー公式Youtube「たこやきレインボーofficial」にて実施致しました生配信「たこ虹の家にいるTVリターンズ#26」において、弊社所属のたこやきレインボーのメンバーである春名真依による不適切な発言がございました。弊社はこの度の事態を重く受け止め、本人およびご家族と協議の上、春名真依の芸能活動を当面の間自粛することといたしました。
アイドルグループ「たこやきレインボー」の春名真依さんが発言した不適切発言の内容ですが、「丁寧な暮らしをする餓鬼」というガチャポン商品のフィギュアの話題になり、その会話の流れの中で、他のメンバーが「餓鬼って何?」とその意味を尋ねました。
それに春名真依さんが「えたひにんみたいな感じのやつ」と回答したそうです。
「えたひにん」は賎民身分を指す差別用語とされており、放送禁止用語にも指定されているためこの発言が問題になりました。
これだけ聞くと確かに問題発言のように感じますが、実は春名真依さんは「魑魅魍魎(ちみもうりょう)」と答えようとしたところ、その読み方を「えたひにん」と勘違いしていたため、この発言になってしまったという事です。
「活動自粛の原因は、春名が〝魑魅魍魎(ちみもうりょう)〟というところを、〝えたひにん〟と間違えて発言してしまったからのようです。〝餓鬼〟のフィギュアがあったという話題で、メンバーが『餓鬼ってなぁに?』と質問した流れで発言。本人に差別の意識はなかったのでしょうが、差別発言は多数のクレームが予想されます。
春名真依さんには差別の意識はなく、しかも言い間違いだったという事なので、これで活動自粛はやりすぎではないかという声も上がっています。
たこやきレインボーの春名真依、
— E.クラーク(Clarke) (@d1v9d_10nan15) February 3, 2021
不適切発言により活動自粛
魑魅魍魎を「えた・ひにん」と読み間違えてしまったことに活動自粛とのこと
何度も言うが、今は言葉狩りはやめて、文脈を読み取り、不適切かどうかを判断するのが世界の風潮
差別的な意味ではなく、ただの読み間違えを罰してるのは愚か
活動自粛になったたこやきレインボーの春名真依さん、魑魅魍魎をえたひにんって読み間違えて活動自粛て流れてきたんだけど、これで活動自粛はひでえw
— だいじゅ🍑🌸🌙(安元孫孫孫)⊿ (@Daijyu4648) February 3, 2021
魑魅魍魎読めない人はいるし(そもそもむずい)、頑張って読んだらこれて運営の器w
おいくつなのかは存じないけど、えたひにんは確かに耳に残っちゃう
このアイドルグループ「たこやきレインボー」春名真依さんの「えたひにん 」発言による、活動自粛によって、「えたひにん 」という言葉自体にも注目が集まっています。
次の見出しからこの「えたひにん 」についてもう少し詳しく見ていきたいと思います。
えたひにんは差別用語で放送禁止用語にも指定されている
「えたひにん」という言葉は差別用語とされており、不用意に使用するとアイドルグループ「たこやきレインボー」の春名真依さんのように批判されてしまう場合があるのです。
また、「えたひにん 」は放送禁止用語にも指定されています。
「えたひにん」が何故、差別用語や放送禁止用語にされているのかについては、次の見出しで「えたひにん」の意味とともに見ていきます。
えたひにんの意味や現在
出典:https://upload.wikimedia.org/
「えたひにん」は、差別用語とされ、放送禁止用語にも指定されている言葉ですが、具体的にはどのような意味がある言葉なのでしょうか。
「えたひにん」は学校の教科書にも出てきますが、2002年度までの教科書では、江戸時代に成立した身分制度「士農工商」の下にある身分が「えたひにん」という言葉の意味であると説明されています。
当時の教科書では「えたひにん」の意味として、江戸幕府が固定された身分制度の中で民衆の不満をそらすために、それよりも下に「えたひにん」という身分をおいた。彼らは川沿いや崖下などの生活環境の悪いところに住まわされ、死んだ馬や牛などの死骸の処理、死者の埋葬、囚人の世話、死刑囚の処刑などの人の嫌がる仕事をさせられていた人々であるといった説明がされていました。
なお、現在は、新たな史料などの研究から、そもそも「士農工商」の身分制度自体がなかったという説が有力になりつつあり、その下に「えたひにん」という身分があったとする記述は教科書から削除されているようです。
ただ、差別を受ける存在だったとの記述は残っており、「えたひにん」の人々は他の身分の人々から差別を受け、祭りや村の運営などに参加できなかった。職業や住む場所や着るものなどが、厳しく制限されていたといった説明がされているようです。
つまり、「えたひにん 」とは、平民よりも下の身分に置かれ、差別を受けている人々という意味で使われる言葉です。
現在では日本には身分制度といったシステムは存在しませんが、かつてのそうした身分の概念が転じて、何らかの差別を受けている人やいわゆる「被差別部落」に居住する人々を蔑むような意味で「あいつはえたひにんだ」などと使う人々が存在するため、「えたひにん」は差別用語、放送禁止用語になっています。
えたひにんの漢字は「穢多非人」
「えたひにん」は漢字で「穢多非人」と書きます。「穢多」と「非人」というのは本来別の存在を指していますが、被差別対象を指す言葉としてワンセットにされ「えたひにん」という言葉が定着しています。
「えた」を漢字で書いた「穢多」は、穢れ(けがれ)が多いという意味になり、「ひにん」を漢字で書いた「非人」は人に非る(あらざる)という差別的な意味になるので、「えたひにん」が差別用語であるというイメージを感じ取りやすいかと思います。
えたひにんの語源
「えたひにん」は漢字で「穢多非人」と書きますが、その語源についても見ていきます。
「穢多(えた)」の語源
現在、「穢多(えた)」という言葉が確認できる史料で最も古いものは13世紀頃(鎌倉時代)に成立したもので、1296年に成立したと言われている絵巻物の「天狗草紙」などで確認できます。
鎌倉時代に作られた語学辞典「名語記」には、「河原の辺に住して牛馬を食する人をゑた(えた)となつく、如何」、「ゑたは餌取也。ゑとりをゑたといへる也」と書かれている部分があります。「えたは餌取(えとり)なり」と書いていて、「えた」というのは「餌取」の事であると書いています。
この「餌取」というのは、同時期に成立した辞書的な書物「塵袋」という史料に、「根本は餌取と云ふへき歟。餌と云ふは、ししむら鷹の餌を云ふなるへし」と書かれていて、鷹狩りに使う鷹の餌となる動物を獲る職業の人を指す言葉だと説明されています。
こうした史料を根拠として、この「餌取」が転じた事が「穢多」の語源であるという説が有力です。
また、当時の日本に、仏教の教えによって「生き物を殺生する事は悪行である」という認識が定着しつつあったとされ、「鷹の餌を取る餌取の仕事」=「生き物を殺生する穢れの多い仕事」すなわち「穢多」であるとされて、さらにそれが転じて、生き物を殺生する仕事である屠畜や皮革産業などが「穢多」と呼ばれるようになったのが語源とする説も有力とされています。
「非人(ひにん)」の語源
「非人(ひにん)」という言葉自体の語源については、元々は仏教の言葉だったと言われており、人間以外の存在である、釈迦如来の眷属である天人や龍など、仏法を守護する種族いわゆる八部衆を指す言葉として用いられていて、差別的な意味を持つ言葉ではありませんでした。
日本では、橘逸勢という平安時代の貴族が反逆罪に問われて、元々の姓と官位を剥奪され、天皇から代わりに「非人」という姓を与えられたのが初出とされています。
また、「非人」は元々は中世の時代に芸能などを生業としていた流浪の人々を指す言葉で、それが次第に被差別的な言葉になったのが語源とする説などがあります。
このように「非人」と呼ばれる存在は江戸時代以前から存在していましたが、江戸時代になってからは、代々非人身分の者は各地の非人小屋に属して、非人頭に管理されて勧進(神仏のご利益を得るという名目で寄付を募る事)などを生業とし、共同体の警護などの役割を担っていたとされます。
また、近親相姦などの罪を犯した罪人が「非人手下(ひにんてか)」という刑罰を下されて、通常の身分から「非人」の身分に落とされる場合や、所属していた村などの共同体から追放されたり、経済的な理由で逃散した者などは「野非人」と呼ばれて取締りの対象とされました。
このように「非人」は江戸時代には、差別を受ける対象だったとはいえ、幕府や藩などによって管理されるいわば公式な存在でした。
つまり、「穢多」と「非人」は本来別の存在であり、語源として最初に確認できるのもそれぞれ平安時代頃とかなり古くから存在していていた事が確認できますが、いつの時点からか「えたひにん」と一括りにされて差別対象を蔑む言葉として使用されるようになったようです。
えたひにんの多かった地域
「えたひにん」が多い地域、ようするに穢多非人の集落があった地域は全国各地に所在しているとされていますが、特に西日本に多く、関西をはじめとして、福岡、広島、愛媛などに多く見られるようです。特に京都には「えたひにん」に関連する地域が多くあったとされています。
福岡県で1990年代に行われた調査では、えたひにんと関連する福岡県内の地域(被差別地区)は「600地区」を超えるとされています。
同様に、広島県で1990年代に行われた調査では、えたひにんと関連する地域(被差別地区)は「約500地区」とされています。
また、愛媛県での1990年代の同様の調査では、えたひにんと関連する地域(被差別地区)は「450地区以上」とされています。
えたひにんが多いとされる地域は、西日本だけでなく東京都にも多く存在するとされ、東京都議会で「東京都内の部落数は234地区」との答弁が行われた記録が残っています。
他にも、1993年発行の「東日本の被差別部落」という書籍に「東京都の被差別部落数は248地区」との記載があります。
まとめ
今回はアイドルグループ「たこやきレインボー」のメンバー・春名真依さんが「えたひにんみたいなやつ」と発言した事で話題になっている「えたひにん」についてまとめてみました。
「えたひにん」は漢字では「穢多非人」と書き、その意味は江戸時代にあったとされる「士農工商」の下におかれたと言われていた賎民階級を指す言葉です。近代でも被差別対象を蔑むような意味で使用される差別用語で、放送禁止用語にも指定されています。
この差別用語「えたひにん」という発言をした事で、春名真依さんは活動自粛となりましたが、本人には差別意識はなく、「魑魅魍魎」という言葉の読み方を「えたひにん」と勘違いした事による発言だったようです。春名真依さんは差別意識がなかった事に加えて、言い間違いだった事などから活動自粛処分は厳しすぎるのではという声も広がっています。