2014年11月から12月にかけて、神奈川県川崎市幸区にある有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」にて入所者3名が転落死した「川崎老人ホーム連続殺人事件」。
この記事では、同事件の犯人・今井隼人の生い立ちや父親・母親など家族を含め、死刑判決が確定した現在までの真相について詳しくご紹介します。
この記事の目次
今井隼人が起こした「川崎老人ホーム連続殺人事件」とは
老人ホームの入居者3名が相次いで転落死
2014年11月から12月にかけて、神奈川県川崎市幸区にある有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」にて、3名の入居者が相次いで転落死する事件がありました。
認知症患者も多く入居していたことから、神奈川県警の初動捜査では変死事件として処理され、警察の情報共有が遅れたことや、被害者の司法解剖が行われなかったことから、初動捜査が遅れ犯人逮捕まで1年近くを要しました。
短期間で3名の転落死という不可解な状況に殺人事件としての捜査され、2016年2月16日に3名を殺害した疑いで同老人ホーム元職員の今井隼人(当時23歳)を殺人容疑で逮捕しました。
今井隼人はこの事件以前にも、2015年5月の同老人ホームに務めていた際に窃盗を繰り返して逮捕されており、懲役2年6カ月・執行猶予4年の有罪判決を受けたばかりでした。
今井隼人は3人以上殺していた?
今井隼人は3件目の転落事故直前に1人を殺害した?
今井隼人が勤めていた有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」の同僚の証言によると、3人目の犠牲者が出る直前に、今井隼人が発見して病院に搬送しその後亡くなった方がいたということです。
殺害したという完全な証拠が無いため立件されませんでしたが、亡くなった方の家族は今井隼人が殺害したと疑っているようです。
今井隼人の犯罪歴~殺人事件発覚前には窃盗罪で有罪判決を受けていた
老人ホーム職員になって半年で3名を殺害
- 2014年
5月…今井隼人が「Sアミーユ川崎幸町」で働き始める。
11月4日…要介護3の87歳男性が敷地内の裏庭で転落死した。
- 12月9日…要介護2の86歳女性が敷地内の裏庭で転落死した。
- 12月31日…要介護3の96歳女性が敷地内の裏庭で転落死した。
2015年
5月21日…今井隼人が入所者の財布や金品を盗んだことから窃盗容疑で逮捕された。
9月24日…今井隼人が窃盗罪で懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決を受けた。
9月…今井隼人が窃盗事件を起12月21日・・・川崎市は事件が続いている「Sアミーユ川崎幸町」の介護報酬を3ヶ月間停止させる行政処分を行った。
こしたことで芋づる式に3名の殺害事件が発覚。
12月11日…今井隼人の元同僚である別の元職員3人が入居者を虐待していたことが発覚して書類送検され、1人が在宅起訴、2人が不起訴となる。
12月21日…川崎市は事件が続いている「Sアミーユ川崎幸町」の介護報酬を3ヶ月間停止させる行政処分を行った。
2016年
1月下旬…神奈川県警察幸警察署が今井隼人から数回に渡って事情聴取を行った。
2月16日…今井隼人が殺人を認めたため神奈川県警が一人目の87歳男性を殺害した容疑で16日に逮捕した。
3月4日…今井隼人が二人目の86歳女性を殺害した容疑で再逮捕され、一人目についての殺人罪により横浜地方裁判所に起訴された。
3月25日…今井隼人が三人目の96歳女性を殺害した容疑で再逮捕され。二人目についての殺人罪により横浜地検から追起訴された。
4月15日…横浜地検が三人目についての殺人罪で今井隼人を追起訴し、一連の捜査が終結して裁判の開廷を待つこととなった。
今井隼人の生い立ちと家族
今井隼人、実家は街の電気屋さんだった
今井隼人は横浜市神奈川区内の小中学校に通い育ちましたが、父親は電気屋をしており店番を手伝うこともあったようです。
近所の70代女性は、今井隼人がお店の跡を継いで店主になると思っていたことを語っています。
しかし、今井隼人の父親は事件から数年前に他界しており、お店もその頃に閉店となっていました。
今井隼人、父親の死をきっかけに介護の道へ
今井隼人は最初は高い意欲を持っていた
医療系専門学校を卒業し、国家資格である救急救命士の資格を取得していた今井隼人は、父親の死をきっかけにして医療関係に進まず介護の道に進みました。
2014年4月に臨んだ「Sアミーユ川崎幸町」での採用面接では、今井隼人は志高い様子で志望動機を語っており、翌月に正社員として登用されました。
今井隼人は救急救命士の資格を持っていることから周囲の期待を受け、仕事も早く的確であることから信頼も集めていたようですが、その半年後に犯行に及びました。
今井隼人、職場での評価は意外にも高かった
今井隼人と一緒に食事に行くこともあった仲だった同僚男性は、介護職員として評価が高かったことを語っています。
飯山: 今井は介護職未経験でしたが、救急救命士の資格を持っていることもあって、大きな期待を受けていました。淡々と仕事をこなすタイプで、仕事も早かった。上司からも同僚からも、優秀な介護職という評価でした。
今井隼人は事件を起こさずに真面目に仕事を続けていれば、職場でも上に立つ立場に出世して行ったかもしれません。
しかし、器用ではあっても性格的な適性が最悪であり、簡単に人を殺し、平然と嘘をつく今井隼人はどの業界でも破綻していたことでしょう。
今井隼人、窃盗した金で同僚に高級ホテルで大盤振る舞い
今井隼人は窃盗で得た200万円で大盤振る舞いをしていた
同僚の話では、今井隼人はいわゆる”普通の優しいタイプ”だったようですが、一方で自分を良く見せるために虚勢を張るタイプだったと語っています。
今井隼人が老人ホーム内で窃盗を繰り返して得た金品は200万円に上り、その頃は同僚を高級ホテルの食事に連れて行って約7万円の食事を奢るなど大盤振る舞いをしていました。
飯山: 今井は3月あたりから、すごく羽振りがよくなった。施設の中でいろんな人に奢りまくっていました。逮捕される2ヵ月くらい前から、とにかくお金を持っていた。僕たち同僚の介護職を、お台場にある日航ホテルの鉄板焼き屋に連れて行ってくれました。
(中略)
飯山: 妹が交通事故で死んだと施設に報告して、1週間の休暇をとっていました。事件が発覚した今は、ちょうどその時期から今井はおかしくなったのかなって思っています。窃盗で逮捕された後、職員同士で今井という人間について振り返ったことがありました。結局、妹さんも生きているし、嘘だった。
今井隼人は休暇を取るために平然と妹を死んだことにするなど、常軌を逸した精神構造をしていたようです。
今井隼人のような殺人を起こす人間の精神構造は普段から大きくズレているということを、同僚の証言から明らかにされましたが、周囲にこうした性格の人間がいたなら警戒した方が良いかもしれません。
今井隼人「川崎老人ホーム連続殺人事件」母親と妹への自供と犯行動機
今井隼人、逮捕前に母親や妹に自供していた
2018年2月8日に「川崎老人ホーム連続殺人事件」の裁判員裁判が横浜地方裁判所で開かれましたが、証人として出廷した今井隼人の母親は逮捕前に息子が殺害を認めていたことを明かしました。
同15日深夜、今井被告から母親のもとに電話が入った。「これで自由に電話できるのも最後。本当はお母さんの顔をみて話したかった」と今井被告は話した。母親が「顔を見ない方が話しやすいこともある」と促すと、今井被告から「手伝っていない。自分が殺した」と話したという。今井被告はその後、殺人容疑で逮捕された。
短絡的な殺害を繰り返した”異常者”である今井隼人は、母親に対しては心を開いていたようですが、妹にも事件を起こしたことを明かしていたようで、家族仲は決して悪くはなかったようです。
今井隼人の犯行動機は仕事のストレス
仕事のストレスに耐えられなかった今井隼人
今井隼人は3名の命を奪った犯行動機について、介護の仕事にストレスが溜まっていたことを明かし、様々な感情が渦巻いていたことが引き金となったと答えました。
最初に殺害した男性については手のかかる人だったと述べており、今井隼人は「申し訳なかった」と謝罪の意を示しました。
今井隼人「川崎老人ホーム連続殺人事件」の現在~死刑が確定する
今井隼人、裁判では一貫して犯行を否認
今井隼人は3名の殺害を認めて逮捕されましたが、公判前整理手続になると一転して「記憶にない」と言い始め、その後「記憶はあるがやっていない」と供述が二転三転しました。
今井隼人の弁護人は警察の自白強要の圧力から嘘を付いたと弁護したため、裁判での争点は逮捕前の殺人を認める供述の信用性となる見通しとなりました。
検察側は、3件の事件当時に当直勤務していたのは今井隼人のみであることが犯人である有力な状況証拠として提示し、さらに取り調べの際に録音・撮影したデータを法廷で公開して信ぴょう性の高い証拠としました。
しかし、今井隼人は事件が起きた当時に当直をしていた記憶はあるものの何もやっていないと犯行を否認し、弁護人は健忘症の症状のため記憶が無いとでっち上げて無罪を主張しました。
今井隼人、2018年3月に地裁で死刑判決が下る
2018年3月22日に判決公判が横浜地方裁判所で開かれ、今井隼人に死刑が言い渡されました。
検察側は自白の信用性立証のため、県警による取り調べの様子を録音・録画した映像を法廷で放映。捜査員が自白を強要する場面は確認されず、今井被告は「殺そうと思って殺した」と手ぶりを交えて説明するなど殺害当時の様子を詳細に供述しており、検察側は「迫真性があって信用できる」としていた。
一方、弁護側は「(取り調べの際に)圧迫感があり、自白を強要された」と全面無罪を主張。今井被告も最終陳述で「信じてください。何もやっていない」と訴えていた。
判決の決め手となったのは今井隼人の自白時の映像であり、それでも法廷で嘘をつき続けた今井隼人に情状酌量の余地は無く死刑判決となりました。しかし、その後、判決を不服として控訴しています。
今井隼人、2023年5月に死刑が確定する
今井隼人は控訴しましたが、2022年3月の2審でも死刑判決となっています。
2022年3月9日、東京高裁で開かれた控訴審の判決で裁判長は冒頭、主文の言い渡しを後回しにし、判決理由の読み上げから始め「捜査段階の自白調書などは信用できる」「事案の重大性、悪質性は際立っている」などと指摘しました。
そのうえで1審に続き、東京高裁も死刑と判断し、今井被告の控訴を棄却しました。
2審についても判決を不服として最高裁判所に上告しましたが、2023年5月11日になって今井隼人が自ら上告を取り下げる書類を拘置所に提出し、死刑判決が確定しました。
取り下げの理由として、テレビ朝日は「ここまで長く戦ってきて気持ち的にも疲れがたまっていました。限界であると思い上告の取り下げをしようと考えています」という今井被告の言葉を報じている。
現在も老人ホーム職員による殺人事件が後を絶たない
老人ホーム職員による殺人事件が後を絶たない
2019年5月22日に東京都品川区にある有料老人ホーム「サニーライフ北品川」に勤めていた元職員の根本智紀が、入居者男性を暴行して殺害したとして逮捕されました。
「川崎老人ホーム連続殺人事件」が起きてから、この事件までに類似の事件が複数起きており、老人ホームでの虐待・殺人事件が社会問題化してきているようです。
・17年7~8月
岐阜県高山市の介護老人保健施設で当時80~93歳の男女5人が死傷。うち2人に対する傷害致死と傷害罪で職員だった男が起訴
・17年8月
東京都中野区の介護付き有料老人ホームの浴室で男性(当時83)が死亡。浴槽に沈めて殺害したとして職員だった男が殺人罪で起訴
・18年8月
熊本市のグループホームで女性(当時88)が死亡。腹を殴るなどして死亡させた傷害致死罪で職員だった男が起訴され実刑判決
・19年1月
神奈川県横須賀市の老人ホームで女性(当時89)が死亡。首を絞めて殺害した殺人罪などで職員だった男が起訴
高齢化社会が加速し続ける現代では、今後も老人ホームでの虐待や殺人事件は増える一方だと思われますので、国が本腰を入れて対策をしない限りは減ることはないでしょう。
今井隼人「川崎老人ホーム連続殺人事件」について総まとめすると…
・今井隼人は父親の死をきっかけに介護の道へ進んだ
・今井隼人は逮捕前に母親と妹に犯行を自供していた
・今井隼人は1審、2審で死刑判決となり、その後上告を取り下げ2023年5月に死刑判決が確定した。
老人ホームでの代表的な殺人事件として注目を集めた「川崎老人ホーム連続殺人事件」についてご紹介してきました。
現代では老人への虐待や殺人だけでなく、子供への事件も年々増加していることから、社会全体が病んでいるということであり、そう簡単には減ることは無さそうです。