重大な冤罪事件である「大川原化工機事件」が注目されています。
この記事では大川原化工機事件の概要、不当逮捕された社長ら幹部3人と相談役の死亡、警部補による事件捏造の証言、塚部貴子検事や増田美希子警視正に処分がない事への批判声、裁判や現在についてまとめました。
この記事の目次
大川原化工機事件は警視庁公安部が自らの手柄のために捏造した冤罪事件

「大川原化工機事件」とは、2020年3月11日に、神奈川県横浜市の機械製造会社「大川原化工機株式会社」の代表取締役以下幹部3名が、警視庁公安部外事第一課により逮捕され、約11ヶ月にわたって勾留された後、公安部による杜撰な捜査と強引な証拠づくりによる事件捏造であった事が確定した冤罪事件です。
大川原化工機事件の概要
警視庁公安部外事第一課は、一部の幹部の実績(手柄)づくりのために、大川原化工機株式会社が、生物兵器の製造に転用可能な噴霧乾燥機(スプレードライヤー)を、経済産業省の許可を得ずに中華人民共和国(中国)に輸出したとする事件をかなり強引に作り出しました。(事件の捏造)
外為法違反容疑で逮捕された大川原化工機株式会社の幹部3名(代表取締役社長・大川原正明さん、常務取締役・島田順司さん、相談役・相嶋静夫さん)は一貫して無罪を主張しましたが、認められず11ヶ月にわたって勾留されて取り調べを受けました。
3人のうち相嶋静夫相談役はその最中に胃がんと診断されるも癌発覚から1ヶ月以上も勾留が解かれず、外部の病院に入院した時には既に手遅れの状態で冤罪が確定するのを見る事なく死亡しています。
逮捕から1年4ヶ月が経過した2021年7月30日、東京地検は突如3人に対する公訴取り下げを決定。刑事裁判は終結して事実上3人の無罪が確定しました。事件は国家権力による「冤罪」であった事が公となりました。
その後、舞台は国家賠償請求訴訟へと移り、警察と検察の捜査の違法性が司法の場で断罪される事となります。
ここでは、大川原化工機事件の発端、社長以下幹部3名の逮捕と相談役の悲劇的な死、冤罪が確定するまでの経緯、そしてこの冤罪事件の捜査を主導した警部補や検事達の役割と事件後の処分、裁判(国家賠償請求訴訟)やその後など、事件の全貌について詳細にまとめていきます。
大川原化工機事件の発端は法律の改正と公安の独自解釈による強引な捜査

出典:https://txbiz.tv-tokyo.co.jp/
近年稀に見る重大な冤罪事件となった「大川原化工機事件」の発端は、外為法の改正と、それを独自解釈した公安警察による強引な捜査の開始でした。
大川原化工機事件のきっかけは外為法の改正
2013年10月、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」の貨物等省令が改正され、生物兵器の製造に転用される恐れがあるとして、一定の機能を持つ「噴霧乾燥機(スプレードライヤー)」が輸出許可の対象となりました。
事件の舞台となった大川原化工機株式会社は、神奈川県横浜市に本社を置く、噴霧乾燥機の分野で国内トップシェアを誇る優良中小企業です。噴霧乾燥機とは、液体を霧状にして熱風で乾燥させてその粉末を製造する装置で、インスタントコーヒーや粉ミルク、医薬品など私たちの生活に身近な製品の製造に不可欠な技術です。
警視庁公安部による独自の解釈と捜査開始
外為法の貨物等省令の改正で定められた噴霧乾燥機の規制要件は以下の通りでした。
② 平均粒子径10マイクロメートル以下の製品を製造することが可能なもの。または噴霧乾燥機の最小の部分品の変更で平均粒子径10マイクロメートル以下の製品を製造することが可能なもの
③ 定置した状態で機械内部の滅菌または殺菌をすることができるもの
これら3つの要件全てに当てはまる場合は経産省の輸出許可が必要となる
この外為法の貨物等省令の改正を受けて、警視庁公安部は、「大川原化工機」の製品(噴霧乾燥機「RL-5」)が、内部を熱風で殺菌できる機能を持つため規制対象に該当するのではないかとする独自の解釈に基づいて、2017年頃から同社に対する捜査を開始しました。
しかし、大川原化工機の当該製品はあくまでも食品などを乾燥させるためのもので、内部全体を完全に滅菌・殺菌する能力はなく、規制対象にはあたらないというのが会社側の認識でした。
警察OBがいない中小企業が意図的に狙われた可能性
海外への不正輸出を担当するのは警視庁公安部外事1課5係で、大川原化工機の捜査を担当したのも同係でした。同係長の宮園勇人警部(当時)は、「大企業は警察OBがいてやりにくい。小さすぎても輸出をあまりやっていない。社員100人くらいの中小企業を狙うんだ」と日頃から部下に命じていたとの内容が毎日新聞などで報じられています。
当時5係の捜査員約20人を率いていた宮園勇人係長(警部)は日ごろ、こんな言葉で部下に発破をかけていたという。
「大企業だと警察OBがいる。会社が小さすぎると輸出自体をあまりやっていない。100人ぐらいの中小企業を狙うんだ」
社員が約90名、天下りによる警察OBもいなかった大川原化工機はまさにこの“条件”に合致していました。この事から、意図的に大川原化工機がターゲットとされ、恣意的な解釈によって強引に事件が作り上げられた疑惑が浮上しました。
公安警察は都合の良いように解釈を捻じ曲げて強制捜査を進め冤罪を生み出した
警視庁公安部外事1課5係による捜査は、この外為法の貨物等省令での「滅菌・殺菌」の定義を、大川原化工機の製品が規制対象に該当するように意図的に解釈する事から始まりました。
同社の製品は、内部に熱風を送る事で乾燥させる機能は持つものの、全ての箇所を無菌状態にする「滅菌」や、特定の菌を死滅させる「殺菌」を保証する設計にはなっていませんでした。
事実として、検察側の噴霧乾燥機を空焚きすると装置内部の温度が110度まで上昇するため「殺菌することができる」との主張に対し、弁護側が後に行った実験では、装置を空焚きしても温度が90度に満たない箇所がある事が確認されています。
検察官は、噴霧乾燥機を空焚きにして、装置の内部の温度が110度まで上昇すること、さらに大腸菌O157は50度の温度を9時間保てば死滅することから、噴霧乾燥機は「殺菌することができる」に該当するとの主張であった。
これに対し弁護側は、噴霧乾燥機を用いて実験を行ったところ、噴霧乾燥機を空焚きしても90度に満たない箇所があることを報告書にして証拠請求した。
しかし、捜査を担当した安積伸介警部補(当時)らは、専門家の意見を自分たちの見立てに合うように歪めて捜査報告書を作成していた事や、当初、経済産業省が同社の製品が規制対象になるとの公安部の解釈に否定的だったのを、公安部が経産省に働きかけて、容認に転じさせた経緯も後の裁判で明らかになっています。
さらに、後の国家賠償請求訴訟では、現職の警察官が「公安部長が経産省に(規制対象と認めるよう)お願いしたと考えている」と証言するなど、事件が「捏造」であったことを裏付ける証言が内部から次々と飛び出しました。
同社の製品が輸出規制対象になるとした同公安部の解釈に経済産業省は否定的でしたが、その後、容認に転じたことが強制捜査につながりました。二審では、経産省の担当者が当初は「省令を改正しない限り規制できないのでは」と述べていたメモが提出され、公安警察官が「公安部長が経産省に(規制対象と認めるよう)お願いしたと考えている」と証言するなど、事件捏造(ねつぞう)のために解釈をねじ曲げたことが明らかになりました。
大川原化工機の社長ら幹部の逮捕と長期勾留や相談役死亡までの悲惨な経緯

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大川原化工機に対する警視庁公安部外事1課5係による捜査は長期間に及び、大川原正明社長が39回、島田順司常務取締役(当時)が35回、そして相談役の相嶋静夫さんが18回にわたって任意の取り調べに応じ捜査に協力しています。
にもかかわらず、2020年3月11日、警視庁公安部は、大川原社長、島田元常務、相嶋相談役の3人を外為法違反容疑で逮捕しました。
逮捕後、3人は約11ヶ月もの長期間にわたって勾留され、弁護側は何度も保釈を請求しましたが裁判所はこれを認めませんでした。
これは日本における刑事司法におかる「人質司法」に典型的な例であり、自白を強要したり、関係者との口裏合わせを防ぐという名目の下、身体拘束を長期化させる事で被疑者を精神的、肉体的に追い詰める捜査手法にあたるとして批判を集めています。
3人は逮捕勾留後、一貫して無罪を主張し続けましたが、その訴えが聞き入れられる事はありませんでした。
相嶋静夫相談役が死亡した経緯
この「大川原化工機事件」で冤罪が確定する前に病気で死亡するという最も悲劇的な結末を迎えたのが、当時72歳であった相談役の相嶋静夫さんでした。
逮捕から約7ヶ月後の2020年10月、相嶋静夫さんは拘置所内で体調の悪化を訴え、進行胃がんである事が発覚しました。しかし、がんが発見された後も、検察官は保釈に反対し続け、裁判所も保釈を認めませんでした。
相嶋静夫さんの妻は、東京拘置所の所長宛に「命だけは助けてほしい」と、適切な検査と治療を懇願する手紙を送りましたが、状況は改善されませんでした。
相嶋さんの妻(77)はその場で、胃がんと診断された後に東京拘置所長あてに書いた手紙を取り出し「保釈されず困り果てています。日々衰弱し、夫は見殺しにされてしまうのかと気が狂いそうです。命だけは助けてください。どうか、どうか助けてください」と、3人に読み聞かせた。
相嶋静夫さんが勾留停止になって外部の病院に入院できたのは、胃がんの発覚から1ヶ月以上が経過した11月のことでした。しかし、すでに手遅れの状態であり、相嶋静夫さんは2021年2月7日に入院先の病院で死亡しました。
生前、相嶋静夫さんは自身の無実が証明される事を強く願っており、入院中に家族に宛てたビデオメッセージでは「みなさん元気ですか?じいじはあんまり元気ないけど頑張ってるよ。早く元気になって…みんなに会いたいです」と語っていました。
また、妻に対しては取り調べを行った捜査員について「あの人たち人間じゃないのかな?きっと人間の仮面をかぶったなんか怪物かな」と話していたそうです。
後に遺族は、東京拘置所が適切な医療を怠ったとして国に損害賠償を求める別の裁判を起こしましたが、東京地裁は2024年3月、「拘置所の診療行為には合理性がある」として遺族の訴えを退けています。
起訴取り消しによる冤罪の確定も既に相談役の相嶋静夫さんは死亡
大川原正明社長ら3人の逮捕から約1年4ヶ月、裁判が開始される直前の2021年7月30日、東京地検は突如、3人に対する公訴を取り下げました。
「犯罪にあたるかどうか疑いが生じた」というのがその理由で、これにより刑事裁判は終結し、事実上、3人の無実が確定。大川原化工機事件は国家権力による「冤罪」であった事が公とされました。
大川原正明社長と島田元常務が保釈されたのは、逮捕から11ヶ月後の2021年2月5日の事で、そのわずか2日後に相談役の相嶋静夫さんは死亡しており、生きているうちに自らの冤罪が証明されるのを知る事は叶いませんでした。
大川原化工機事件の国家賠償請求裁判で現職警部補が「冤罪」を認める証言

大川原化工機事件では、第1回公判直前に東京地検が公訴を取り下げた事で刑事裁判は終結しました。
その後、大川原社長、島田元常務、そして亡くなった相嶋氏の遺族は、違法な捜査で甚大な被害を受けたとして、国(検察)と東京都(警察)を相手取って、約5億6500万円の損害賠償を求める国家賠償請求起訴を東京地方裁判所に提起しました。
国家賠償請求裁判での捜査に関わった警部補による「捏造」を認める証言
この裁判は、異例の展開をたどりました。
大川原化工機の捜査に実際に関わった現職の警察官(安積伸介警部補)が、原告側の証人として出廷し、「まぁ、捏造です」、「捜査員の個人的な欲でこうなってしまった」と自身も関与した捜査が捏造であった事を認める衝撃的な証言をおこなったのです。
原告側の代理人が「公安部が事件をでっち上げたのでは?」と問うと、この警部の部下にあたる男性警部補が捜査について「まぁ、捏造です」と認めたのだ。
「男性警部補は、『公安部が立件に積極的だと感じたか』と問われ、『はい』と答えた。さらに『輸出には問題がなかった。捜査員の個人的な欲でこうなってしまった』などと証言しました。
引用:「まぁ、捏造です」「捜査員の個人的な欲でこうなってしまった」警部補が驚きの証言…大川原化工機が国を訴えた「冤罪事件」の行方
この安積伸介警部補の証言は、公安警察という秘密主義の組織の内部で、個人的な功名心からいかに無理な事件が作り上げられていたのかを白日の下に晒しました。
国家賠償請求裁判の判決
2023年12月27日、東京地裁は、警視庁公安部の捜査と東京地検の起訴はいずれも違法であったと認定し、国と東京都に合わせて約1億6200万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
2023年12月27日、東京地方裁判所民事第34部(桃崎剛裁判長)は、警視庁公安部の警察官による逮捕および取調べ、ならびに検察官による勾留請求および公訴提起が違法であると認定し、被告国と東京都に対して約1億6200万円の支払いを命じる判決を出した。
判決では、警察官による逮捕や取り調べ、検察官が必要な捜査を尽くさずに行った勾留請求と公訴提起が、国家賠償法上違法であると激しく断罪されました。
国と都はこれを不服として控訴しましたが、2025年5月28日の東京高裁の二審判決も一審判決を支持し、賠償額を賠償額を約1億6600万円に増額。
「大川原化工機」(横浜市)を巡る冤罪(えんざい)事件で、大川原正明社長(76)らが東京都と国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が28日あり、東京高裁(太田晃詳裁判長)は一審東京地裁に続いて逮捕・起訴は違法と認め、約400万円増額して都と国に計約1億6600万円の賠償を命じた。
そして、同年6月、国と都が最高裁への上告を断念した事で、警察、検察の捜査の違法性を認めた判決が確定しました。
機器の不正輸出の疑いをかけられた機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)への捜査が違法だったとして、東京都(警視庁)と国(東京地検)に計約1億6600万円の賠償を命じた東京高裁判決について、都と国は上告期限の11日、上告をしないと発表した。
大川原化工機事件で社長ら3人の幹部を起訴した塚部貴子検事らへの批判

大川原化工機事件では、大川原正明社長ら幹部3人を起訴した張本人として、塚部貴子検事が注目されています。
塚部貴子検事の判断がなければ、不当な長期勾留や相談役・相嶋静夫さんが病気で死亡する事は避けられた可能性が高く、その責任は極めて重いと被害者側から厳しく追及されています。
ここでは、塚部貴子検事の具体的な役割と、なぜその行動が問題視されているのかについて見ていきます。
塚部貴子検事は大川原化工機事件の担当検事
塚部貴子検事は、東京地検の検事としてこの事件を担当しました。
日本の刑事司法制度では警察が逮捕しても裁判にかけるかどうかを最終的に判断するのは検察官です。
検察官は、警察の捜査に問題がないか、証拠は十分か、そもそも犯罪にあたるのかを客観的に判断し、不当な起訴を防ぐ、いわば「最後の砦」という役割を担っています。
しかし、塚部貴子検事はこの最も重要な役割を果たしませんでした。
塚部貴子検事の行動が問題視される理由
塚部貴子検事の行動について、検察官としてあるまじき重大な問題点が指摘されています。
1つは、塚部貴子検事が前任者の「起訴は困難」との判断を覆したという点です。
大川原化工機に対する捜査の段階では、別の検事が担当しており、この検事は警視庁公安部の捜査内容を検討して「立件(起訴)は難しい」との懸念を示していました。捜査の杜撰さや、そもそも大川原化工機の製品が規制対象にあたらない可能性に気づいていたと見られています。
しかし、この検事が異動となり、後任として担当になったのが塚部貴子検事でした。塚部貴子検事は、前任者が抱いていた懸念を無視して警察の言い分を鵜呑みにする形で起訴に踏み切りました。
2つ目は、「警察の捜査を全くチェックしなかった」という点です。
国家賠償請求裁判で明らかになったように、警視庁公安部の捜査は、専門家の意見を都合よく解釈したり、不利な証拠を隠したりするなど、「捏造」だと言われても仕方がない杜撰なものでした。
塚部貴子検事は、これらの捜査を十分に精査・検証する事なく、警察が作成したストーリーをそのまま受け入れてしまいました。検察官として最も基本的な職務である“警察権力に対するチェック機能”を全く果たさなかったのです。
3つ目として「起訴が長期勾留と相嶋さんの獄中の死亡という悲劇に直結した」という点が挙げられます。
もし、塚部貴子検事が「起訴は不当」と判断し3人を釈放していれば、彼らが11ヶ月もの長期間にわたって拘束される事はありませんでした。
特に相談役の相嶋静夫さんが勾留中にがんで死亡した悲劇は、塚部貴子検事の「起訴」という判断がなければ起こり得なかったと言えます。
塚部貴子検事は大川原化工機事件の冤罪が確定した後も何の処分も受けていない
2023年12月、国家賠償訴訟の判決で、東京地方裁判所は塚部貴子検事ら検察官による公訴提起(起訴)を「違法」であると明確に断罪しました。
判決では「検察官らは、必要な捜査を遂げずに公訴を提起した」と厳しく指摘され、その責任が法的に認定されました。
これほど重大な過ちを犯し、司法の場でもその違法性が認定されたにもかかわらず、2025年9月現在、塚部貴子検事は検察庁から何の懲戒処分も受けていません。
そのため、大川原社長や死亡した相嶋静夫さんの遺族は「人の命を奪う判断をした検事が、何の責任も問われずに今も検事として働いているのはおかしい」として、塚部貴子検事の辞職を強く求め続けています。
また、相嶋静夫さんが胃がんと診断された後も、治療のための保釈請求に反対し続けた検事(塚部貴子検事とは別の人物)に対しても、遺族は「辞任・辞職が相当だ」と強く求めています。
大川原化工機事件捜査時のトップは増田美希子警視正だが処分無しに批判も

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大川原化工機事件において、捜査を管轄する警視庁公安部外事第一課長だったのが増田美希子警視正(当時)でした。
増田美希子さんは、2020年8月〜2021年1月にかけて警視庁公安部 外事第一課長を務められていました。
増田美希子さんの捜査の監督責任者としての立場
増田美希子さんは、大川原化工機事件の初期の捜査には関わっていませんが、社長らが不当に勾留され、捜査が継続されていた重要な時期に、その捜査を監督する最高責任者でした。このため、増田美希子さんの責任ついて問う声も存在します。
外事第一課長として、増田美希子さんには部下が行っている捜査の違法性や問題点をチェックし、是正する責任がありました。
社長らが長期勾留され、特に相談役の相嶋静夫さんが勾留中に胃がんと診断され、命の危険が叫ばれていた時期も、増田美希子さんの課長在任期間と重なります。
にも関わらず、違法な捜査が止まる事はなく、結果的に検察が起訴を取り消すまで事態は改善されませんでした。
部下の捜査員による証拠の捏造や強引な取り調べといった暴走を、組織の責任者としてなぜ止められなかったのか、その監督責任が厳しく問われています。
増田美希子さんは事件後も処分されずむしろ栄転
大川原化工機事件が冤罪だった事が確定した後、警視庁は内部調査を実施して当時の係長や管理官ら退職者を含む19名を処分しました。しかし、その中に増田美希子さんの名前はありませんでした。
警視庁は「増田氏の就任時にはすでに捜査の主要部分は終わっていた」といった趣旨の説明をしているとされますが、被害者側や多くの批判的な意見はこれを「組織のトカゲの尻尾切り」と見ています。
そして、増田美希子さんは事件後、警視庁公安部参事官、警察庁警備局の課長職、福井県警本部長(女性初)と、順調な昇進を続けています。
この栄転が、被害者や遺族の感情を逆撫でしており、世間からも「警察組織に自浄能力はないのか」という強い批判を招いています。
大川原化工機事件での19名の処分と警視庁と検察幹部の謝罪

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国家賠償請求裁判の判決確定を受けて、警視庁と最高検察庁はそれぞれ内部調査を行い、検証結果を公表しました。
警視庁は2025年8月7日、「捜査指揮系統の機能不全」が最大の反省事項であるとし、当時の公安部の管理官と係長(いずれも退職済み)を減給100分の10の懲戒処分相当とするなど、退職者を含む合計19人を処分または処分相当としました。
しかし、その処分の多くは訓戒や注意といった軽いもので、大川原社長は「個人個人の責任に深く突っ込んでいない」、島田元常務は「誰が実際にどうしたのか、ほとんど解明されていない」と、検証内容が不十分であると厳しく批判しました。
前代未聞の墓前での謝罪
処分の発表後、警視庁と検察の幹部は、大川原化工機株式会社を訪れ、大川原社長と島田元常務に直接謝罪しています。しかしその際に幹部が島田元常務の名前や社名を間違えなどし大きな批判を呼びました。
警視庁公安部による冤罪(えんざい)事件「大川原化工機事件」で、大川原化工機の本社(横浜市)を訪れて謝罪した警視庁の鎌田徹郎副総監は20日、謝罪相手の名前を間違えるミスを犯した。続いて謝罪した東京地検の森博英公安部長も大川原化工機の社名を間違って呼んでおり、社員から「あり得ない」と怒りの声が上がる。
さらに、2025年8月25日には、警視庁の鎌田徹郎副総監、最高検の小池隆公安部長、東京地検の市川宏次席検事の3人が死亡した相嶋静夫さんの墓前を訪れ、遺族に対して謝罪するという極めて異例の対応がとられました。
墓前では、相嶋静夫さんの妻が「適切な医療も受けられず亡くなった夫のことが残念でなりません。謝罪は受け入れますが、決して許すことができません」と悲痛な胸の内を語っています。
大川原化工機事件の現在と今後の課題

最後に、大川原化工機事件の現在と今後の課題について見ていきます。
国家賠償請求訴訟が確定し、警察と検察による公式な謝罪も行われた事で、大川原化工機事件は1つの区切りを迎えました。しかし、事件が突きつけた課題は今なお重く残されています。
なぜ、個人的に手柄を欲しての暴走を組織として止められなかったのか、誰が、どの段階で、何を判断したのか、被害者側の求める「真の事実解明」は現在も果たされていません。
また、人の命まで奪った冤罪事件の関係者に対する処分が、訓戒や注意などで住まれて良いのか、組織の自浄作用が働いているとは到底言えないとの批判は現在も根強く存在しています。
警察や検察による内部調査だけでは、身内に甘い結論になりがちです。大川原社長らが求めるよう、透明性と公正性が担保された第三者委員会による徹底した検証が不可欠だと考えられます。
さらに、刑事司法制度の改革も必要です。自白偏重や長期勾留を前提とした「人質司法」の抜本的な見直し、取り調べの全面的な可視化、そして検察の権限のあり方など、日本の刑事司法制度そのものの改革が急務だとする声も高まっています。
まとめ
今回は近年稀に見る重大な冤罪事件となった「大川原化工機事件」についてまとめてみました。
大川原化工機事件では、社長以下幹部3人が、生物兵器製造に転用可能な噴霧乾燥機を経済産業省の許可を得ずに不法に輸出したとする容疑で大川原化工機株式会社の社長以下幹部3名が逮捕され、11ヶ月にわたって交流されました。
そのうち1人、相嶋静夫さんは勾留中に胃がんが判明し治療のための保釈を求めるも1ヶ月以上にわたって勾留が続けられ、外部の病院に入院した時には既に手遅れであり、事件が冤罪である事が証明される前に死亡しています。
大川原化工機事件ではその後、冤罪だった事が確定し、不当に逮捕された大川原化工機の社長と死亡した相嶋静夫さんの遺族は国と東京都を相手取って損害賠償を求める国家賠償請求裁判を起こし、裁判所は約1億6600万円の賠償を命じる判決を下しています。
この事件では、捜査関係者19名が処分されましたが、起訴を決定した塚部貴子検事や、捜査を担当した警視庁公安部外事第一課のトップだった増田美希子さんに対して何の処分もない事に対しては批判的な声が上がっています。

















