「天安門事件」といえば、1989年6月4日に、中国・北京の天安門広場で起こった中国共産党による民主化デモ弾圧事件となります。
「天安門事件」の死者数の隠蔽と真相、戦車などによる武力弾圧、そして詳細についてわかりやすくまとめてみました。
この記事の目次
天安門事件をわかりやすく解説①～すべてのはじまりは胡耀邦の追悼集会
天安門事件の始まりは改革派指導者・胡耀邦の失脚
「天安門事件」については、1980年代中盤から後半にかけて改革開放路線を推し進めていた中国共産党中央委員会総書記・胡耀邦さんの失脚が遠因となります。
中国共産党のチベット政策を批判して、チベット語教育の解禁や政治犯の釈放の他、信教の自由まで認めるほどのリベラル派だった胡耀邦さんは、中国国内での言論の自由化にまで着手した名政治家でした。
その結果、1986年12月頃には、中国の各都市で民主化を求める学生たちによるデモが起こるなど、胡耀邦さんの改革路線に対して大衆たちの期待が高まって行きました。
しかしながら、あまりにも開明的すぎる思想が中国共産党内で危険視された結果、鄧小平さんら保守派による巻き返しが起こり、胡耀邦さんは1987年1月になると総書記の座を追われてしまい、以降は北京市内の自宅で軟禁状態となりました。
その後、1989年4月8日に心筋梗塞に倒れてしまった胡耀邦さんは、同月の15日に無念の死を遂げております。
中国版「ペレストロイカ」を目指していたと言える胡耀邦さんの死は、中国の若者たちに大きな衝撃を与えることとなり、北京市内にある天安門広場で学生たちによる追悼集会が起こった他、民主化を求める政治運動も活発化して行きました。
趙紫陽は民主化運動家の怒りを鎮めるために奔走
1987年11月に中国共産党中央委員会総書記の座についた趙紫陽さんに関しては、胡耀邦さん同様に改革開放路線の政治家でした。
そのため、胡耀邦さんの死後に激化した学生たちの民主化運動に対しても理解を示し、怒りを鎮めるために奔走していました。
鮑氏によると、事態を重く見た党指導部は18日、党中央政治局常務委員会を開催し、胡氏の葬儀について、「全国各政府機関と海外大使館で半旗を掲げ、10万人規模の告別式を行う。告別式の司会者は楊尚昆国家主席で、趙紫陽総書記は弔辞を読み上げる。トウ小平氏も告別式に出席する。弔辞で胡耀邦を高く評価する文言を盛り込む」などと細かく決定された。
さらに、会議では20日に『胡耀邦同志の死去について』との声明文を発表することで一致した。この声明文を通じて、学生らの怒りの沈静化を図る狙いがあったという。
しかしながら、保守派の重鎮・鄧小平さんの暗躍もあり、胡耀邦さんを称えるための告別式や声明文発表が一転して白紙となるなど、趙紫陽さんは党内の政敵たちに足を引っ張られることになりました。
「四・二六社説」で民主化を望む若者の怒りが一気に爆発
中国共産党と民主化運動家との対立が決定的となったのは、1989年4月26日に人民日報の社説として掲載された「旗幟鮮明に動乱に反対せよ」との記事が原因となりました。
趙紫陽さんの北朝鮮訪問中に保守派の独断により掲載されたその記事は、通称「四・二六社説」と呼ばれており、民主化デモを暴動と一喝する内容でした。
胡耀邦の追悼を機に全国で起こっている学生たちの活動を「ごく少数の人間が下心を持ち」、「学生を利用して混乱を作り出し」「党と国家指導者を攻撃し」「公然と憲法に違反し、共産党の指導と社会主義制度に反対する」と位置づけ、「断固として反対しなければならない」と呼びかけた。
引用：旗幟鮮明に動乱に反対せよ
そのため「四・二六社説」は中国国内の多くの若者たちの反発を買い、1989年5月3日には北京市内で10万人規模のデモと集会が起こるなど、民主化運動に一般の労働者層までもがなだれ込む契機となっています。
ゴルバチョフ歓迎式典が中止になる
学生らによる民主化デモは、1989年5月13日には北京市内にある天安門広場でのハンガーストライキにまで発展しており、中国各地から50万人規模の若者が集まる状況でした。
ちなみに、ゴルバチョフさん自体は、「民主主義の大使」として民主化運動家たちに大歓迎されていたようですね。
天安門事件をわかりやすく解説②～人民解放軍の武力行使へと発展
中国共産党が軍による武力鎮圧を命令
既に非常事態に陥っていたと言える北京市内でしたが、民主化運動家たちのハンガーストライキの目的が「四・二六社説」の撤回であったため、趙紫陽さんら改革開放派の政治家たちは、あくまで学生たちとの対話路線を維持していました。
特に民主化運動家たちに同情的だった趙紫陽さんは、「四・二六社説」を修正することで学生たちの気をなだめようと動いていたようですが、保守派の政治家たちの反発にあい、実現出来ずに終わりました。
その後の中国共産党は、1989年5月17日になると、鄧小平さんら保守派政治家たちの主導で北京市内に戒厳令を布告することが決定しています。
同会議において、鄧小平は、学生らの抗議を迅速に沈静化しなければ、内戦または2回目の「文化大革命」が起きる可能性があると強い口調で話した。鄧は、北京市内が非常事態に陥り、戒厳令を敷くことを宣言し、軍による武力鎮圧を命令した。
保守派・李鵬と民主化運動家の会見は物別れに
民主家運動家たちに対して弾圧的な態度を見せ始めていた中国共産党ですが、改革開放派の政治家たちの働きかけもあり、学生たちとの会見の場も設けています。
1989年5月18日に行われた会見の場には、改革開放派の政治家たちも含まれていたものの、保守派の李鵬さんと民主化運動家たちとの間で言い争いが生じ、物別れで終わるという最悪の結末を迎えてしまいました。
まず李鵬が「会見の目的はハンストを終わらせる方法を考えることだ」と発言すると、ウーアルカイシは「実質的な話し合いをしたい。我々は李鵬を招待したのであって、議題は我々が決める」と反論した。学生側は「学生運動を愛国的なものとすること」と、「学生と指導者の対話を生放送で放送すること」を要求したが、李鵬は「この場で答えることは適当ではないし、2つの条件はハンスト終結と関連付けるべきではない」と話し、会見は物別れに終わった。李鵬を激しく非難する姿が全世界にテレビにより流されたことで注目を集めることとなった。
引用：六四天安門事件
趙紫陽が最後の説得を試みるも失敗
対立を深めて行く民主化運動家たちと中国共産党でしたが、1989年5月19日になると、趙紫陽さんは学生たちの説得に出向いています。
天安門広場に駆け付けた趙紫陽さんは、民主化運動の理解者として知られていたため、学生たちから拍手喝采で迎え入れられたと言われております。
とはいえ、民主化運動家たちの活動を愛国的と称える一方で「命を粗末にしてはいけない」と語り、すぐにストライキを辞めて天安門広場から去ることを進める趙紫陽さんの説得は、学生たちには受け入れて貰えずに失敗に終わることになりました。
この段階においても民主家運動家たちの間に身の安全に対する危機感が薄かったのは、中国共産党が自分たちに向けて暴力を振るうはずがないという信頼感が強かったそうですね。
西側メディアの生中継が次々に禁止される
戒厳令が布告された後の北京市内については、中国共産党の意向により西側のメディアの生中継が禁止されるなど、物々しい雰囲気が漂うことになりました。
一方で西側メディアも録画中継の他に音声による生中継を試みるなど、中国共産党の報道管制に対して抵抗はしていたようですね。
この頃になると、中国共産党が弾圧的な方針に転化していることを悟った知識人たちまでもが民主化運動家たちにストライキの解散を促していますが、学生たちは「民主の女神像」を天安門広場に設置するなど、あくまで強気なままでした。
天安門事件をわかりやすく解説③～戦車など武力弾圧による死者数の隠蔽と真相
天安門広場で人民解放軍による戦車などの武力弾圧【1989年6月】
民主化運動家たちとの対話路線が完全に失敗に終わってしまったこともあり、趙紫陽さんら改革開放派たちは中国共産党内で完全に発言力を失うことになりました。
そのため、天安門広場に集まる民主化運動家たちを武力で強制排除することを決定した中国共産党は、1989年6月に入ると、北京市内に人民解放軍を集結させて行ったようですね。
そして運命の日となる1989年6月4日未明に、その数2万5000人とも言われている人民解放軍が天安門広場に突入。民主化運動家たちも必死の抵抗を見せたものの、戦車まで繰り出す相手には成す術もなく鎮圧されてしまう結末に終わりました。
その日の天安門広場で何があったのかは、万単位の勢力同士がぶつかり合うという混乱の最中での出来事であったため、虐殺があった説となかった（双方の武力衝突の結果犠牲者出た）説の諸説が乱れ飛んでいる状況です。
しかしながら、たまたま事件を目撃した外国人たちの証言を読む限り、人民解放軍による残虐行為などはあった可能性が高いと言えます。
「1人の兵士がやたらめったら銃を撃ちまくっていて、群衆に向かって無差別に発砲していた。3人の若い女子学生が、この兵士の前にひざまずいて、もう撃たないでと懇願していた」と、ホルトさんは語りながら、両手を合わせて拝む仕草をした。
「なのに兵士は、3人を撃ち殺した」
天安門事件による本当の死者数は1万人以上？
「天安門事件」の犠牲者に関しては、中国共産党側は319人との公式発表を残しています。
しかしながら、中国共産党側の発表を信じる人間は世界的に少なく、中国赤十字ですら2700人から3400人程度の人間が「天安門事件」で命を落としたのではないかという見解を発表している状況です。
そんな中で2017年12月に公表された英国の外交文書では、「天安門事件」の犠牲者数は1万人以上に達しているという衝撃的な数字が記載されていました。
英国で新たに公開された外交文書によると、中国当局が民主化運動を弾圧した1989年の天安門事件で、中国軍が殺害した人数は少なくとも1万人に上ると報告されていることが明らかになった。
「1万人」という人数は、当時のアラン・ドナルド駐中国英国大使が1989年6月5日付の極秘公電で英国政府に報告した。大使は、「中国国務院委員を務める親しい友人から聞いた情報を伝えてきた」人物から入手した数字だと説明している。
「天安門事件」では、犠牲者以外にも数千人単位で民主化運動家たちが逮捕されたとの情報もあり、そのうちの一部は処刑されてしまったとの噂まであります。
そのため、志ある多くの若者たちの人生が暗転した事件であることは間違いありません。
趙紫陽は騒動の責任を取らされて失脚
「天安門事件」以前から既に保守派に主導権を握られ、レームダック化していた趙紫陽さんですが、1989年6月24日に総書記を正式に解任されています。
総書記を解任された直後から自宅軟禁状態に陥った趙紫陽さんでしたが、中国共産党内でも同情的な人間が多かったのか、政治活動以外の自由はある程度保証されており、趣味のゴルフなどは楽しめたようですね。
その後、2005年1月に趙紫陽さんは亡くなっておりますが、最後まで名誉が回復することはありませんでした。
「天安門事件」から30年～中国民主化への幻想と今後
民主化運動のリーダーたちは今も戦っている
「天安門事件」後の民主化運動家たちですが、リーダー格の中にはウーアルカイシさんのように逮捕を逃れて海外亡命した後、仲間たちの遺志を引き継ぎ現在も中国共産党と戦っている人間もいます。
また、逮捕されたリーダーたちも国際社会の監視の目があったため、命を取られることまではなかったようで、王丹さんなどは6年間の服役の後アメリカに亡命して民主化運動を継続しているようですね。
一方で「天安門事件」を契機に民主化運動から足を洗い、中国共産党の監視の目に怯えながらも中国で暮らしている元民主化運動家たちも多いらしく、仲間たちの屍を踏み越えて豊かになっていった社会に対して複雑な感情を抱いているとも言われております。
中国政府は新たな民主化運動を恐れ監視の目を強めていた
天安門事件から30年、経済的に豊かになった今でも中国に言論の自由はありません。
中国政府もAIや認証技術を駆使して監視の目を強化。事件の舞台となった天安門広場にはロボットセンサーがフル稼働しています。
中国政府の影響力は大学などにも浸透し、独立系書店などを含む「リベラル空間」も摘発を受け、いまでは市民が改革を話し合うことさえ難しくなっている。民主化活動家の胡佳氏は、言論の自由は自由のスタート地点なのに、それさえなければ、次の天安門など考えることもできないとしている
天安門事件についてまとめると…
・中国共産党は天安門事件における死者数は319人と公表したが、実際は1万人に上る死者をだしていた
・天安門事件から30年経った今も、中国に言論の自由はなく政府の監視の目は年々強化されている
中国では「天安門事件」についてインターネットで検索できないようになっており、中国の歴史から葬り去ったつもりのようです。
「豊かになればいずれ民主化する」と思われていた中国ですが、本当の意味での「自由」を手に入れることはまだまだ先のようですね。
