都会でも浜焼きスタイルが楽しめる24時間営業の海鮮居酒屋チェーン「磯丸水産」の大量閉店が話題になっています。
この記事では磯丸水産の店舗大量閉店の原因と赤字化の真相、闇があるという噂や、現在の新たな経営戦略によるのV字回復などについてまとめました。
この記事の目次
磯丸水産は浜焼きスタイルが人気の海鮮居酒屋チェーンで大量閉店が話題に

「磯丸水産(いそまるすいさん)」は、東証プライム上場企業「株式会社SEPホールディングス」が運営する海鮮居酒屋チェーンで、関東や近畿地方を中心に多くの店舗(2025年現在最新情報では99店舗 )を展開しています。
磯丸水産は2009年2月に東京・吉祥寺に1号店を出店し、年間10店舗〜20店舗以上のペースで店舗網を広げ、2015年5月には全国100店舗展開を達成しました。
磯丸水産の売りは、水槽から引き上げたばかりの活貝など様々な海産物を目の前で焼いて食べられるシステムで、都会で浜焼きスタイルが楽しめるとして話題になり、2017年から2018年にかけてのピーク時には全国に約150店舗を展開するほどに成長し、年中無休24時間営業のスタイルで都心部では特に人気でした。
しかし、2018年を契機として店舗数が減少しはじめ、新型コロナウイルス感染症の拡大が決定打のようになって大きく店舗数を減らし、ネットでも磯丸水産が赤字転落で店舗を大量閉店としているとして話題になっています。
ここでは、磯丸水産の店舗大量閉店の原因と真相、“闇”があるといった噂、現在の経営状況などを中心に紹介していきます。
磯丸水産の店舗大量閉店の原因と真相① 固定費が高いビジネスモデル

「磯丸水産」は、駅前の一等地へ集中的に路面店を出店し、店舗デザインも派手にし、多くの人々の目に触れることで高い集客性を実現しました。
また、チェーン系の居酒屋で24時間営業という当時は珍しかった革新的な経営方針を採用した事で、従来の居酒屋が取りこぼしていた深夜から早朝にかけての需要を取り込み売り上げを大きく伸ばしていました。
ちなみに、深夜営業に関して当初は深夜12時(0時)までの営業だったところ、閉店時間間際になっても客足が途絶えなかったために24時間営業に踏み切ったという経緯がありました。
一方で、このビジネスモデルは固定費が高いという諸刃の剣でもありました。
つまり、都心一等地の高額な家賃や24時間営業を支えるための人件費(時間が長い事に加え深夜割増賃金もあって人件費が高くなる)は常に重い固定費としてのしかかってきます。

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また、店内の生簀の維持費や浜焼き用コンロの管理費用など、他の居酒屋にはないコストも嵩みました。
そのため、売上が少しでも落ち込むと、瞬く間に赤字に転落するという危険性を常に内包していたのです。
磯丸水産の店舗大量閉店の原因と真相② 消費者の「飽き」が出てきた

「磯丸水産」は、都会にいながらにして新鮮な魚介を自分で焼いて食べるという、浜焼きスタイルを体験できるというエンターテイメント性が多くの顧客を魅了し、それがメディアでも大々的に取り上げられて人気と知名度を獲得して急速に成長しました。
しかし、これも1号店出店から約10年が経過すると、当初は斬新だった「都心で浜焼きが楽しめる」というコンセプトの目新しさは薄れていきました。
同様のスタイルを模倣する競合店も現れ、浜焼きというスタイルが一般化するにつれて磯丸水産ならではのオリジナリティが失われていきました。
かつては魅力だったセルフで焼くというスタイルも、次第に「煙たい」、「面倒」と感じる顧客層も現れはじめ、顧客心理の変化も経営にとって逆風になりました。
つまり、「磯丸水産」の赤字転落と大量閉店の裏には、原因として消費者の「飽き」とブランドの陳腐化があったと考えられます。
磯丸水産の店舗大量閉店の原因と真相③ コロナ禍で売上が激減し赤字転落

ここまで紹介した「固定コストが高いビジネスモデル」、「斬新だった経営スタイルの陳腐化」という原因により2018年頃より店舗数が減少傾向に転じていた「磯丸水産」でしたが、そのタイミングで2019年末頃より新型コロナウイルスによるパンデミックが発生し、これが経営悪化への決定打となりました。
コロナ禍では、緊急事態宣言による休業や時短営業要請は、24時間営業を強みとしてきた磯丸水産にとって致命的でした。深夜帯の需要が消失し、宴会需要も激減。売り上げは大幅に落ち込み、2021年2月期の決算では営業利益は53.4億円の赤字に転落し、続く2022年2月期の決算では79.2億円と赤字幅を拡大させました。
また、2019年2月期には378億円あった売上高は、2022年2月期には104億円と3分の1以下にまで激減し、店舗の閉店が相次ぎピーク時は155もあった店舗数は100店舗以下にまで減少しました。
磯丸水産の「闇」とは…アルバイトの不祥事はあったが経営に不適切な面は特にない
「磯丸水産」の店舗大量閉店が話題になった頃、インターネットでは、「磯丸水産の闇」が赤字化の原因という根拠不明の噂が飛び交いました。
実際には、磯丸水産の闇などは存在せず、運営会社である「株式会社SEPホールディングス」も現在までに不適切な経営や不祥事などが報じられるようなスキャンダルは1度もなく、ネット上に信憑性のあるネガティブな情報がタレコミされたといった事もありません。
ただ唯一、2018年に磯丸水産の東京都内にある店舗のアルバイト店員が、SNSに不適切な投稿をして炎上した事があり、このアルバイト店員の不祥事が「磯丸水産には闇がある」という噂につながった事がありました。
磯丸水産の「闇」としてネットで話題になったアルバイトの不祥事とは

2018年2月7日に、磯丸水産の東京都内の某店舗(現在も営業中の店舗なので店名は避けます)のアルバイト店員が、Twitter(現在のX)に、男女のカップルが来店し、男性の方が女性にお酒を飲ませて口説いていたため、(勝手に)女性に提供するハイボールのウイスキーの量を多くして、女性を「KO」して男性を手助けしたとの内容を投稿しました。
この投稿はすぐにネット上で拡散され炎上し、このアルバイト店員の本名や磯丸水産の店舗なども特定されました。
これを大手オンラインメディアのJ-CASTニュースが取り上げ、かなり大きな騒動へと発展しました。
居酒屋チェーン「磯丸水産」でアルバイトをしている男性が、勤務中に通常よりもウイスキーの量を多くしたハイボールを故意に提供し、女性客を「KO」したなどとツイッターで呟いたことが物議を醸している。
この騒動が、磯丸水産はアルバイトの管理や教育が徹底できておらず、闇が深いのではないかとの批判につながる事になりました。
アルバイトの不祥事に即座に対応し「闇」というよりむしろ評価を上げている
ただ、この炎上騒動に磯丸水産側は即座に対応し、社内調査によってこの男女客を特定し、女性が「ハイボール濃い目」を3杯注文しているが、当該店員が社内基準を逸脱して極端にアルコール濃度の高い商品を提供した事実は説明できなかったと説明。
さらに、この男女の客から濃すぎるなどのクレームなどもなく、退店時も「ご馳走様」との声掛けと共に穏やかに帰っている事が確認できているとの内容もメディアを通じて説明しています。
要するに、このアルバイト店員はネタとして事実ではない内容をTwitterに投稿したに過ぎず、女性を濃いアルコールのお酒を意図的に提供してKOしたという部分に関しては虚偽であったという事のようです。
ただ、磯丸水産は、この問題のツイートを投稿したアル売店員に対しては「犯罪行為の手助けとも受け止められかねない、誇張した不適切な表現で情報発信した」として、「社内ルールに則って厳正に処分致します」と発表しています。
磯丸水産はこの件に、かなり素早く適切に対応しており、「闇が深い」などのイメージがこれにより定着するような事にはならず、むしろ評価を上げる結果となりました。
女性客「酔い潰し」を自慢気に報告… 磯丸水産、「不適切」投稿のバイト店員を処分 : J-CASTニュース
— 蛻 (@memento_sonne) February 14, 2018
もうニュースになってたのか、
対応早くて素晴らしい https://t.co/j9dmVUYswF
磯丸水産の現在…売上がV字回復し赤字からも回復し大幅黒字化へ

一時は売り上げが激減して赤字に転落し、店舗の大量閉店が話題になった「磯丸水産」ですが、現在は売上がV時回復しており、赤字を脱出し大幅黒字化の道筋も見えてきている状況です。
これは運営会社のSFPホールディングスが、店舗の大幅閉店という痛みを伴う改革を経て、新たな成長戦略に舵を切った事が要因となっています。
磯丸水産の現在① 食事需要の強化と業態の転換

「磯丸水産」は現在、コロナ禍を経て、居酒屋としての利用だけでなく、単に食事を楽しめる「食事処」としての需要を取り込む戦略にシフトしています。
一部店舗を、元々は売りであった浜焼き用のコンロを撤去し代わりに定食メニューを需実させた「磯丸水産食堂」へと転換し、これまでとは異なる客層を取り込む事に成功しています。また、ランチメニューやテイクアウト、デリバリーサービスへの対応も強化し、収益源の多角化を図っています。
磯丸水産の現在② 出店戦略と価格戦略の見直し
かつては都心の一等地への集中出店を基本戦略としていた「磯丸水産」でしたが、現在は地方都市中心の出店戦略へと変換しています。
また、直営店だけでなフランチャイズ展開にも注力し、より柔軟な店舗網の構築を目指しています。
そして、店舗の立地に応じて価格設定を変える「3カテゴリー戦略」を導入。これは店舗を立地によって、都心部、住宅街、インバウンド需要が見込める地域の3つのカテゴリーに分け、それぞれに適した価格設定とメニュー設定をする事で収益性の最大化を図るという戦略で、これが売上の回復に大きく寄与していると見られています。
磯丸水産の現在③ 「ネオ大衆酒場」とM&A戦略の推進
「磯丸水産」を運営する株式会社SEPホールディングスは、現在、新たな戦略として「五の五」や「鳥平ちゃん」といった、より低投資で小型な「ネオ大衆酒場」業態の開発と出店に注力しています。これは「磯丸水産」、「鳥良」に次ぐ第3の柱を育てる試みとなっていて、経営の安定性の強靭化が見込まれています。
また、「磯丸水産」の地方への出店強化と並行する形で、地方の有力な飲食店をM&Aによってグループに迎え入れる「SFPフードアライアンス構想」も推進し、新たな成長ドライバー(企業を持続的な成長へと導く「原動力」や「要因」)の獲得に向けて積極的な動きを見せています。
まとめ
今回は、都会でも浜焼きスタイルで新鮮な海産物を楽しめるという斬新なコンセプトで人気を得た海鮮居酒屋「磯丸水産」についてまとめてみました。
磯丸水産は浜焼きスタイルと24時間営業の居酒屋チェーンとして話題にあり、2017年頃に経営のピークを迎えるも、2018年からは店舗数が減少傾向となり、コロナ禍の直撃もあって2021年に売上が赤字化しました。磯丸水産の店舗大量閉店の闇などと言われましたが、その原因は、売り上げが落ちると赤字に転落しやすいビジネスモデルだったというのが真相でした。
一時は赤字に転落した磯丸水産ですが、居酒屋だけなく食堂としての店舗展開や出店戦略や価格戦略の転換などの思い切った改革により業績がV字回復し、現在は赤字を脱し、再びの大幅黒字化の道筋も示されています。


















