トリカブト保険金殺人事件とは

 

トリカブト保険金殺人事件は、1986年5月20日に発生した保険金目当ての殺人事件です。

 

 

犯人の神谷力は、妻の神谷利佐子さんをトリカブトの毒を飲ませて殺害しました。しかし、神谷力にはアリバイがあり、なかなか逮捕に至りませんでした。

 

神谷力のアリバイは最終的には崩れたのですが、その犯行方法・アリバイ作りの方法は「天才的な犯行」と言われるほど考え抜かれたものでした。

 

ごく一般的な風貌の中年男性が、専門家にもなかなか見破れない方法で殺害したことで、そのギャップがさらに事件の怖ろしさを醸し出しました。

 

そして、その殺害方法は世間を驚愕させ、さらに日本中に「トリカブトは猛毒」という認識を植え付けた事件でもあります。

 

 

トリカブト保険金殺人事件の詳細

トリカブト保険金殺人事件の詳細を説明していきます。

 

この事件の詳細を知ると、この事件がいかに恐ろしい事件だったのか、神谷力の怖ろしさが分かると思います。

 

 

神谷力と利佐子さんは沖縄旅行へ

 

1986年2月に結婚した神谷力と神谷利佐子さんは、結婚3ヶ月後の1986年5月19日に沖縄に旅行に出かけました。

 

新婚夫婦の沖縄旅行に妻の友人を誘うというのは不自然ですが、神谷力は「利佐子さんが寂しがるから」という理由で、利佐子さんのホステス時代の友人3人も沖縄旅行に誘います。

 

そして沖縄到着翌日の5月20日、神谷夫妻と利佐子さんの友人3人は那覇空港で待ち合わせをして、石垣島に向かうことになりました。

 

 

神谷力が沖縄を離れる

 

神谷夫妻と友人3人は那覇空港で合流し、石垣島行きの飛行機にチェックインします。

 

しかし、神谷力は11時40分に「急用を思い出した」と言い訳をして1人で自宅のある大阪に戻ることにして、利佐子さんたちと別れます。

 

そして、残された神谷利佐子さんと友人3人だけで石垣島に向かい、飛行機に乗り込みました。

 

 

利佐子さんが死亡

 

利佐子さんを含めた女性4人は、5月20日の正午過ぎに石垣島に到着しました。そして、タクシーでホテルに向かいます。

 

しかしそのタクシーの中で、利佐子さんは大量の汗と悪寒、手足の麻痺などの症状が出始め、ホテルにチェックインした頃には呼吸困難や痙攣などの症状が出ていました。

 

利佐子さんは八重山病院に救急搬送されますが、救急車の中で心肺停止になり、病院で蘇生処置が行われましたが、15時4分に死亡しています。

 

 

解剖を行う

 

この時、まだ神谷力は那覇空港にいました。利佐子さんが亡くなったことを知った神谷力は、石垣島に来ます。そして、解剖を承諾し、利佐子さんの解剖が行われました。

 

大野医師によって解剖が行われ、死因は急性心筋梗塞と診断されました。つまり、事件性はないと判断されて、この件は処理されることになったのです。

 

しかし、解剖した大野医師は「なんとも言えない勘」が働き、利佐子さんの心臓と血液30mlを保存しておきました。

 

この大野医師の「勘」による心臓と血液が保存されていたことが、事件解明の大きなカギとなりました。

 

 

神谷力への疑惑が深まる

 

神谷利佐子さんの死は事件性はないと判断されましたので、神谷力は逮捕されることなく、「新婚の妻を亡くした悲劇の夫」として過ごしていました。

 

しかし、利佐子さんの友人たちは神谷力を疑い、マスコミに情報を持ち込んだり、警察に働きかけたりします。

 

そして、写真週刊誌「FOCUS」や「日刊スポーツ」などが神谷力の疑惑を報じました。

 

神谷力の疑惑には次のようなものがありました。

 

 

これらの疑惑が判明し、神谷力に関する報道は過熱していきます。

 

 

トリカブト毒が判明するも、アリバイがあった

 

利佐子さんの症状が詳しく報道されたことなどから、利佐子さんを解剖した大野医師は、利佐子さんの症状がトリカブトの毒によって起こる症状と似ていることに気が付きます。

 

そして、資料を読み漁り、トリカブト毒による死であることを確信した大野医師は、保存していた利佐子さんの血液を検査した結果、トリカブト毒アコニチンが検出されました。

 

これにより、利佐子さんはトリカブトの毒によって死亡したことが判明したのです。

 

また、神谷力にトリカブトを69株売ったという福島県内の花屋が現れたほか、神谷力のアパート大家が水道代と電気代が異常に高い月があったと証言し、神谷力の疑惑はさらに深まります。

 

しかし、利佐子さんが苦しみ始めたのは、神谷力と那覇空港で別れてから2時間以上経ってからでした。

 

実は、トリカブトの毒はカプセルを二重・三重にしても、飲ませてから1時間40分以内に症状が現れます。

 

つまり、神谷力にはアリバイがあり、利佐子さんにトリカブトの毒を飲ませることはできないということになります。

 

 

事件の解明

 

しかし、警察は諦めませんでした。

 

猛毒のクサフグを1,000匹以上、神谷力に売ったという漁師が現れたことで、再度保存していた利佐子さんの血液と心臓を調べたところ、フグ毒であるテトロドトキシンが検出されました。

 

このことで、神谷力に対する疑惑はさらに深まりますが、どうしてもアリバイを崩すことはできませんでした。

 

解剖した大野医師は文献を読み漁り、トリカブト毒とフグ毒には拮抗作用があることを突き止めたんです。

 

トリカブト毒はNa+チャネルを活性化させ、フグ毒はNa+チャネルを不活化させるという、相反する作用があり、2つを一緒に飲むと、トリカブト毒の症状が現れないようになります。

 

しかし、フグ毒の方が体から早く消えるため、しばらく経つと、体の中にはトリカブト毒だけが残り、トリカブト毒の症状が現れるというわけです。

 

このことを大野医師が突き止めたことで、神谷力のアリバイは崩れ、事件の全容が明らかになったのです。

 

 

裁判で無期懲役

 

裁判では、検察側は次のような主張をします。

 

 

神谷力は大学にもあるような実験機材を用いて、毒薬を生成していたことが判明します。

 

神谷力はトリカブトは「近所の奥さんたちに見せるため」に購入し、「フグは食品加工会社を起業するために購入した」と反論しました。

 

しかし、裁判では検察側の主張が全面的に認められ、東京地裁では無期懲役の有罪判決が言い渡されました。

 

神谷力は控訴しますが、高裁も地裁の判決を支持します。神谷はさらに上告しますが、上告は棄却され、2000年に無期懲役の判決が確定しました。

 

 

トリカブト保険金殺人事件の被害者は他にもいた？

トリカブト保険金殺人事件の被害者は、神谷力の妻の神谷利佐子さんです。しかし、被害者は実は他にもいたのではないかと見られています。

 

 

神谷力は3回目の結婚

 

神谷力は、利佐子さんと結婚する前に2回の結婚歴がありました。そして、3回目で利佐子さんと結婚しているんです。

 

 

この結婚歴を見るだけで、なんとなく怪しい感じがしますよね。

 

 

2人の前妻も死亡している

 

実は、神谷力の3人の妻は全員不審な死を遂げています。

 

 

神谷力は1番目の妻と恭子さんと結婚2年目で、なつ江さんと不倫関係になっています。

 

そして、恭子さんは1981年に38歳の若さで心筋梗塞で死亡しました。この時は恭子さんに生命保険は掛けられていませんでした。

 

それから2年後には不倫関係だったなつ江さんと結婚しますが、結婚から2年後になつ江さんは急性心不全で死亡します。なつ江さんには保険金1000万円がかけられていました。

 

なつ江さんの死亡からたった2ヶ月後、神谷力は利佐子さんと出会い、結婚からたった3ヶ月後に神谷力によって殺害されました。

 

3回結婚していて、3人とも若くして不審な死を遂げているのは、かなり怪しいですよね。

 

1番目の妻の恭子さんの死の真相は、本当に急性心筋梗塞だったのかもしれません。

 

でも、2番目の妻のなつ江さんには1000万円の保険金をかけていて、その保険金は神谷力に支払われました。

 

また、神谷力はトリカブト毒の実験用のアパートを数年前から借りていて、実験を続けていたことが分かっています。

 

ということは、利佐子さんだけでなく、なつ江さんも保険金目的で殺害した可能性があります。

 

なつ江さんの件で1000万円の保険金を受け取ることができたから、利佐子さんの時はさらに大胆になって、2億円近い保険金をかけて殺害したのかもしれません。

 

神谷力の被害者は、利佐子さんだけではなかった可能性は高いですね。

 

 

トリカブト保険金殺人事件の被害者と犯人・神谷力はスピード婚だった

 

トリカブト保険金殺人事件の被害者である利佐子さんと犯人の神谷力は、1986年2月に結婚しています。

 

この2人の結婚はスピード婚でした。2人が出会ったのは、1985年の11月です。

 

利佐子さんは池袋の高級クラブでホステスとして働いていましたが、その店に神谷力が客として訪れます。

 

神谷力はすぐに利佐子さんに金品をプレゼントし、会って6日後にプロポーズしました。

 

利佐子さんは紳士的な雰囲気の神谷力を好きになり、周囲の反対を押し切って、大阪で同棲を始め、1986年2月に結婚します。

 

そして結婚してから約2ヶ月の間に、利佐子さんは合計4社総額1億8500万円の生命保険に加入させられます。保険金の受取人はもちろん神谷力です。

 

このような経緯があり、トリカブト保険金殺人事件は神谷力に疑惑の目が向けられたのです。

 

ちなみに、神谷力は保険金を受け取ることができませんでした。保険金の受け取り手続きをしていた時、告知義務違反で保険会社が支払い拒否の裁判を起こしたのです。

 

この裁判は第一審では神谷力が勝訴しましたが、第二審の途中でトリカブトの毒で利佐子さんが死亡したことが判明し、神谷力は訴訟を取り下げたため、保険金は支払われませんでした。

 

 

トリカブト保険金殺人事件の犯人・神谷力の生い立ちと父親＆母親

トリカブト保険金殺人事件の犯人の神谷力の生い立ちは、かなり特殊なものでした。

 

その生い立ちから女性観が歪んでしまった･･･と言っても良いかもしれません。

 

 

父親は教授・母親は不倫

 

トリカブト保険金殺人事件の犯人の神谷力は、1939年に宮城県仙台市で生まれます。

 

父親は東北大学工学部の教授をしていて、知的水準はかなり高い家族だったと言えます。

 

 

しかし、太平洋戦争が終わると父親は教授を辞めて、左翼の革新政党の活動に身を投じるようになりました。神谷力が小学3年生の時、父親は革新政党の活動で占領軍に拘束されています。

 

神谷力の母親は旧帝大の教授夫人という身分から、夫が拘束された貧しい妻という身分に落ち、さらに夫がいないことから、6歳年下の男性と不倫に走ってしまいました。

 

神谷力は母親と不倫相手の情事を日常的に目撃したり、音を聞いたりしていたようです。

 

 

母親の服毒自殺

神谷力が小学5年生の時に、サンフランシスコ講和条約が締結されたことで、父親は拘束を解かれ、自宅に帰ってきました。

 

父親は母親に不倫をやめるように言いますが、母親は不倫相手の元に走ります。しかし、不倫相手の男性は「単なる遊び」だったようで、自分の元に来た母親を冷たくあしらったようです。

 

不倫相手に裏切られたことを苦に、母親は神谷力の目の前で睡眠薬を服用して自殺を図ります。その2日後、母親は神谷力に看取られて死亡しました。

 

 

働きながら中学へ

母親の自殺があった後も、父親は革新政党の活動に精を出すばかりで、働いて神谷力を養おうとはしませんでした。5歳年上の兄も同様に、革新政党の活動にのめり込んでいました。

 

生活が苦しかったため、神谷力は小学6年生から工場に住み込み、働きながら学校に通うようになりました。

 

父親の元に戻れたのは中学3年生の時でした。

 

 

トリカブト保険金殺人事件の犯人・神谷力の学歴は高卒

 

トリカブト保険金殺人事件の犯人・神谷力の最終学歴は高卒です。

 

本人は東北大学への進学を希望していましたが、受験に失敗しています。他の大学を受験したり、浪人したりすることなく、受験に失敗した後は上京して就職しています。

 

東北大学を志したのは、その大学の教授だった父親の影響があるのかもしれません。

 

また、学歴は高卒と言えども、旧帝大の東北大学を受験したということは、それなりに学力は高かったことが考えられえます。

 

神谷力の学力が高かったことが、トリカブト保険金殺人事件につながったと言えるかもしれません。

 

 

トリカブト保険金殺人事件の犯人・神谷力の仕事や職業とは

トリカブト保険金殺人事件の犯人である神谷力は、たくさんの仕事を転々としてきました。

 

上京後は池袋の書店で働き、その後は音響機器製造会社に就職するも会社が倒産します。そして、空調機製造販売会社に就職しました。

 

1981年には食品会社「（株）ヘルシー設立」を起業しますが、失敗に終わりました。

 

1986年ごろからは自動車部品製造会社で働いていたようで、1988年には経理部長に出世しますが、1990年には依願退職しています。

 

また、神谷力は利佐子さんの友人には公認会計士と名乗っていたり、利佐子さんと結婚していた時は経営コンサルタントを自営していたとも言われています。

 

しかし、経営コンサルタントとしての収入はほとんどなく、消費者金融から借金をしていたくらいお金に困っていたようです。

 

それでも、月額36万円支払いになる生命保険を利佐子さんにかけていたのですから、保険金目当ての殺人と疑われるのは当然でしょう。

 

 

トリカブト保険金殺人事件の犯人・神谷力は天才？

 

トリカブト保険金殺人事件の犯人・神谷力は天才ではないかと噂されています。なぜなら、警察・専門家もなかなか解明できなかった方法で、利佐子さんを殺害したからです。

 

「トリカブト毒とフグ毒を一緒に服用させると拮抗作用から、しばらくはトリカブト毒の症状が現れないから、それでアリバイを作れる」とは、普通の一般人の知識では思い浮かびません。

 

利佐子さんを解剖した大野医師が文献・論文・学術書を読み漁り、ようやく見つけた方法を高卒の神谷力が編み出していたのです。

 

しかも、神谷力は大学の研究室並みの実験道具を用いて、実験専用のアパートも借りて、マウスで実験していたことも分かっています。

 

最終的にはアリバイが崩され、逮捕・有罪になっていますが、推理小説でもなかなかないようなトリックを考えるなんて、神谷力は犯罪の天才であり、サイコパスだったのかもしれません。

 

アパートを借りて数年に渡り、トリカブト毒とフグ毒の拮抗作用の研究を続けていた神谷力。

 

その努力は間違った方向に行ったため、トリカブト保険金殺人事件を起こしてしまいましたが、その努力・執念を違う方向に向けていたら、世紀の大発見をしていた可能性も捨てきれません。

 

 

トリカブト保険金殺人事件の犯人・神谷力の死因とは

 

トリカブト保険金殺人事件の犯人の神谷力の死因はガンです。

 

2012年11月、大阪医療刑務所で亡くなっています。73歳でした。

 

逮捕後の1995年には、「被疑者 – トリカブト殺人事件」という本で無罪を主張し、無期懲役確定後の2002年には「仕組まれた無期懲役 – トリカブト殺人事件の真実」を出版していました。

 

しかし、それ以降は本を出版せず、大きな主張をすることもなく、刑務所の中で亡くなっています。

 

死亡したことがマスコミに伝わったのも、死亡から3ヶ月以上経ってからのことでした。

 

 

トリカブト保険金殺人事件と犯人・神谷力のまとめ

トリカブト保険金殺人事件の詳細や被害者について、犯人の神谷力の生い立ちや父親・母親などの家族情報、学歴や天才の噂、死因などをまとめました。

 

トリカブト保険金殺人事件は、トリカブト毒とフグ毒の拮抗作用を利用したトリックの殺人事件でした。

 

神谷力は既に死亡したので叶うことはありませんが、なぜ実験を繰り返してまでトリカブトを使おうと思ったのか、1人目と2人目の妻の本当の死因なども証言してもらいたかったですよね。