19世紀イギリスで起きた連続猟奇殺人鬼「切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)」の犯人がDNA鑑定で特定されたと2019年3月に話題になりました。
この記事では、特定された切り裂きジャックの正体やその子孫について詳しくまとめました。
この記事の目次
連続猟奇殺人鬼「切り裂きジャック」の事件概要
19世紀イギリスを震撼させた殺人鬼・切り裂きジャックとは
「ジャック・ザ・リッパー」と名乗ったシリアルキラー
日本で「切り裂きジャック」と呼ばれる「Jack the Ripper(ジャック・ザ・リッパー)」は、1888年4月3日から1891年2月13日にかけて「ホワイトチャペル殺人事件」と呼ばれる連続猟奇殺人事件を起こした犯人です。
これは、ロンドンのイーストエンドにあるホワイトチャペル地区や周辺で発生した11件の殺人事件で、同一犯とみられる事件で少なくとも売春婦5人を切り裂いて殺害しました。
切り裂きジャックは基本的に喉を切り裂いたり、刺したりして殺害して臓器の一部を持ち帰るなど猟奇的な犯行手段を取っていましたが、最後の犠牲者とみられる女性だけは自宅に押し入られて殺害され、全身をバラバラにされて部屋中に内蔵や体の一部をバラまくなど常軌を逸した手口を取っていました。
また、切り裂きジャックは2件「Jack the Ripper」と署名入りの犯行予告を新聞社に送りつけていたことから、近現代における劇場型犯罪の元祖とも言われています。
切り裂きジャックは最後の犯行後その行方をくらませて逮捕されておらず、現在までに”リッパロロジスト”と呼ばれる研究家らによって犯人について様々な研究と検証が重ねられてきました。
容疑者として王族から精神病患者まで幅広い人間が割り出されましたが、現在までに確定には至っておらず世界で最も有名な未解決事件として注目を集めてきました。
切り裂きジャックの残虐な犯行手口と被害者の特徴
切り裂きジャックは売春婦を憎んでいた?
切り裂きジャックが行ったと思われる一連の「ホワイトチャペル事件」の被害者の多くは売春婦でした。
以下に、切り裂きジャックが犯行に及んだと思われる事件被害者が受けた残忍な手口について列挙してご紹介します。
【1888年4月3日…第1の被害者 エマ・エリザベス・スミス】
エマはなぜか2、3人のギャングに襲われたと供述していますが、その2日後に病院で死亡しました。
【1888年8月7日…第2の被害者 マーサ・タブラム】
犯行の残忍さや動機の欠如、地理的な類似性から犯人は切り裂きジャックの可能性が高いと見られていますが、喉は引き裂かれておらず多数刺されていることから他の被害者と犯行手口に違いがあります。
【1888年8月31日…メアリー・アン・ニコルズ】
【1888年9月8日…アーニー・チャップマン】
【1888年9月30日…エリザベス・ストライド】
【1888年9月30日…キャサリン・エドウッズ】
【1888年11月9日…メアリー・ジェイン・ケリー】
切り裂きジャックの可能性が高い最後の事件となりました。
「切り裂きジャック」事件の捜査上にあがった容疑者は7人
切り裂きジャックの犯人容疑者① モンタギュー・ジョン・ドルイト
1857年8月15日~1888年12月1日
モンタギュー・ジョン・ドルイトは目撃情報と人相が似ていたことから容疑者として浮上しましたが、弁護士や教師をしていた社会的に立派な人物でした。
しかし、ひどい風評被害に遭っていたせいか、はたまた精神病を患っていたせいか、ドルイトは切り裂きジャックの最後の事件直後にテムズ川に飛び込み自殺をしており、31歳という若さでこの世を去っています。
ドルイトが有力な容疑者だと見られた背景には、当時のイギリス捜査当局の責任者だったメルヴィル・マクノートンがメモを残していたからで、20世紀半ばから犯人の正体の有力候補に挙がりました。
しかし、マクノートンのメモにはドルイトが医者だと書かれており、正確性、信ぴょう性にかけるとも言われてきたようです。
切り裂きジャックの犯人容疑者② マイケル・オストログ
1833年~1904年頃
マイケルはロシア出身の海軍駐在医・外科医という経歴を持つ人物で、詐欺や窃盗の常習犯である他、殺人の前科もある犯罪人でした。
警察に逮捕された際に精神病院に強制入院させられましたが、切り裂きジャックが事件を起こしている期間にマイケルの所在が不明だったことから警察は容疑者のひとりとして挙げていました。
切り裂きジャックの犯人容疑者③ トマス・ニール・クリーム
1850年5月27日~1892年11月15日
トマスはアメリカ出身の医師で、ストリキニーネという劇薬で売春婦を毒殺したことから「ランベスの毒殺魔」と呼ばれた犯罪人でした。
1892年に死刑が執行されましたが、トマスが絞首台に立った最期の瞬間に「I am jack the…(私は切り裂きジャッ…)」と言いかけて床板が外れたことから、切り裂きジャックである可能性が囁かれ始めたようです。
しかし、切り裂きジャックが犯行に及んでいる期間はトマスはアメリカにいたため犯行は不可能であり、「私は射精している(I am ejaculating)」の聞き間違いの可能性が高いと言われています。
切り裂きジャックの犯人容疑者④ アーロン・コスミンスキー
1865年9月11日~1919年3月24日
アーロンはポーランド出身の理髪師で、精神病による入院歴と犯罪歴があり、切り裂きジャックの殺人現場周辺であるイースト・エンドに住んでいました。
アーロンを容疑者として疑う上で特筆すべきは売春婦を憎んでいるということであり、目撃証言もあったことから警察当局に逮捕されましたが、激しく錯乱したことから重い精神障害が疑われ精神病院に強制入院させられました。
アーロンと切り裂きジャックの筆跡が一致しなかったことから警察は起訴を断念しましたが、その後1919年に入院先の病院で死亡しました。
切り裂きジャックの犯人容疑者⑤ ジェイムズ・メイブリック
1838年10月24日~1889年5月11日
ジェイムズは木綿職人で、切り裂きジャックの事件発生から3週間前に事件現場周辺のミドルセクス・ストリートに部屋を借りていたことから警察は捜査対象にしていました。
ジェイムズは事件とは無関係という線が濃厚とされていましたが、その後妻であるフローレンス・メイブリックに殺害された「メイブリック事件」の被害者として有名になりました。
1991年にはジェイムズのものだとする日記に切り裂きジャックの署名があったとして話題になり、映画化の話も持ち上がっていましたが、その後日記の存在を明かした無職男性の捏造だと発覚しました。
切り裂きジャックの犯人容疑者⑥ ジェイコブ・リーヴィー
1856年~1891年7月29日
警察の捜査は当初解剖に詳しい医者だとしていましたが、肉の解体を仕事とし血まみれでも怪しまれない職業として精肉業者にターゲットが絞られ、その中で近辺に住むユダヤ人であるジェイコブが容疑者として浮上しました。
切り裂きジャックがユダヤ人だとする理由として、3件目の事件現場となったバーナー街の国際労働者会館前ではユダヤ教社会主義の会合が開かれており、4件目の事件現場には「ユダヤ人は理由なく迫害される人びとではない」と書かれてあったためでした。
ジェイコブはこの4件目の事件現場であるロンドンに住む精肉業者であり、同じくユダヤ人精肉業者のジョゼフ・リーヴィーに事件現場で目撃されましたが、ジョゼフは切り裂きジャックがユダヤ人であると迫害を受ける可能性を考えたため警察に詳しく供述しませんでした。
しかし、ジョゼフが語った「犯人は被害者よりも3インチ(約8センチ)高かった」という証言はジェイコブに当てはまるものでした。
しかし、ジェイコブは末期の梅毒患者であり切り裂きジャックが5件目の殺人事件を起こした時には体中の神経がやられて日常生活すら困難な状況だったため捜査は暗礁に乗り上げましたが、5件目の事件はジェイコブを模倣した第三者の仕業という説も浮上していました。
それでもジェイコブの決定的な証拠は上がらず、その後梅毒により死亡しました。
切り裂きジャックの犯人容疑者⑦ ウォルター・シッカート
1860年5月31日~1942年1月22日
ウォルターはドイツ出身の画家で、作家で切り裂きジャック研究家のパトリシア・コーンウェルが独自の調査によりミトコンドリアDNAが99%の一致を見たためウォルターが犯人だと自著で発表しました。
「切り裂きジャック」の正体がDNA鑑定で明らかに
切り裂きジャックの正体① ウォルター・シッカート
ミトコンドリアDNAが切り裂きジャックと99%一致
切り裂きジャック研究家は通称・リッパロロジストと呼ばれていますが、その代表的なひとりで小説『検屍官ケイ・スカーペッタ』シリーズで知られるアメリカの女性推理作家、パトリシア・コーンウェルが犯人として発表したのは前述のウォルターでした。
彼女は容疑者の1人であるドイツ人の画家「ウォルター・シッカート(1860年5月31日~1942年1月22日)」が犯人だという自説から、日本円にして約7億円以上の私財をつぎ込んで調査を行っており、数々の状況証拠の積み重ねと、切り裂きジャックから届けられた手紙の切手から採取した唾液とウォルターの遺物から採取したミトコンドリアDNA鑑定の結果から、その調査報告となる著書『切り裂きジャック』(講談社)にて、ウォルターが犯人だと断定しました。
引用:exciteニュース – 遂に「切り裂きジャック」を特定、29万人に1人の突然変異DNAと一致か!? 世紀の未解決事件、127年目の真実が明らかに!
しかし、パトリシアの調査は状況証拠ばかりで決定的な物的証拠がなく、ミトコンドリアのDNA鑑定に関しても同じ地域出身の人間であれば同じ型を持つ人は多く存在することや、唾液を採取した手紙が切り裂きジャックの物か証拠が無いことから否定する声が多く挙がっていました。
そして、そもそも切り裂きジャックが事件を起こしていた時期にウォルターはフランスにいたというアリバイ情報があり、事件を起こすのは不可能だったとして犯人説は否定されています。
切り裂きジャックの正体② アーロン・コスミンスキー
現在の切り裂きジャック大本命はアーロン
2019年3月に公表された「Journal of Forensic Sciences」に掲載された法医学調査報告書にて、切り裂きジャックは当時23歳だったアーロンだと発表されて話題を呼びました。
パトリシアと同様にリッパロロジストとして知られるラッセル・エドワーズは2014年から切り裂きジャックの大本命はアーロンだとしてきましたが、殺害現場に残されていた被害者であるキャサリン・エドウッズのショールの調査で決定的になったことを明かしています。
このショールはオークションに出品されていたもので、切り裂きジャックの起こした4件目の事件の現場に駆けつけた警察官が拾っていたもので、自宅で保管され子孫が代々一度も洗うことなく現代まで保管し続けてきたものだとされています。
非常に怪しいもののラッセルはこのショールを信じ、リーズ大学で遺伝学を研究しているデヴィッド・ミラー博士に依頼してショールに付着した血液や精液のDNA鑑定を行いました。
1888年9月30日、無残に切り刻まれた4人目の犠牲者、キャサリン・エドウッズがシティ・オブ・ロンドンで発見された。今回、犯人割り出しの決め手となったのは、このエドウッズのショールだった。遺体のそばに落ちていたショールに付着した血液と精液を採取し、最新の技術による遺伝子検査を実施。その結果、最も有力とされながらも、あくまで容疑者の一人であったコスミンスキーのデータと合致したのだ。
この調査では犯人の外見の分析も行われ、茶色の髪と茶色の瞳であることがわかった。これは、事件当時、唯一信頼された目撃者の証言とも一致している。
この研究結果によりアーロンが切り裂きジャックだと確定したかに思われましたが、現在までに断定するには情報が曖昧すぎると否定する声が多数挙がっているようです。
切り裂きジャックの正体はDNA鑑定でも特定できない?
結局DNA鑑定では切り裂きジャックを特定できない?
アーロンも切り裂きジャックだと断定できないという声が多数挙がっているようですが、その理由は概ねウォルターの時と同じようなものでした。
今回の鑑定に用いられたのがミトコンドリアDNAである点だ。ミトコンドリアDNAは本来、犯人を明確に識別するためには使用することが出来ない。ショールに残ったミトコンドリアDNAは、当時ロンドンに住んでいた何千人もの人から来た可能性があるのだ。また検証結果の公開方法についても、一部は詳細なデータではなくイラストとして描かれているため、正確に判断することが出来ないと批判が上がっている。
さらには、このショールが本当に決定的証拠か疑わしいという声さえも寄せられた。専門家はこのショールとキャサリン・エドウズさんを結びつける文書は存在しないとコメント。事実、このショールは当時のヨーロッパでどこでも手に入れられるものだったという。
イギリスの新聞「The Independent」によれば、DNA鑑定専門家がショールのDNA鑑定に決定的な欠陥があると発表しており、これらの否定する声にラッセルやアーロン説を唱える著書を出版した会社は「DNA鑑定について再調査する」と発表しましたが、その後現在まで進展は報告されていないようです。
限りなく切り裂きジャックはアーロンである可能性が濃厚のようですが、まだ決定的な証拠を示すまでは断定はできないようです。
「切り裂きジャック」の子孫~メーガン妃に犯人の遠縁説が浮上
メーガン・マークル妃が切り裂きジャックの遠縁説はデマではない?
イギリス王室のヘンリー王子と結婚したメーガン・マークル妃が切り裂きジャックの遠縁に当たるという話が持ち上がり話題になっています。
マークル妃は過去に米ドラマ『SUITS/スーツ』シリーズに出演していた米国女優ですが、2019年5月15日に放送されたイギリスのドキュメンタリー番組『Meet the Markles(マークル一族に会う)』にマークル妃の遠縁のいとこを自称するジェフ・マジェットという弁護士が登場し衝撃的な告白をしました。
番組に“メーガン妃の遠縁のいとこ”として登場したジェフ・マジェットという弁護士がこれを唱えています。彼はメーガン妃の遠い親類だそうですが、同時に“great-great grandfather”つまり曾曾祖父がヘンリー・ハワード・ホームズであると以前から公言してもいます。このH.H.ホームズは、“アメリカ初の連続殺人鬼”として有名な実在の人物です。
(中略)
「ホームズとジャックは、同一人物だというのです」
ジェフの話が真実であればH.H.ホームズは1988年にイギリスに渡って切り裂きジャックとして事件を起こしたことになりますが、実際にはイギリスに渡った事実は無く、売春婦ばかりを狙う動機も見当たらないようです。
そのためジェフの語った内容はデマである可能性が大きいでしょう。
出演作品「切り裂きジャック」はどう?
— チャーリーフジキ (@zvf05243) May 31, 2019
現代を背景に切り裂きジャックが現れて人々を切り裂く映画でね、意外な結末を迎える。
ジャック役なんですよ、サヴィーニさん。 pic.twitter.com/kOhw6FvN8S
切り裂きジャックの他にもゾディアックの劇場型犯罪やエドゲインの犯行とかに関心向けて調べてた時期があったなぁ…
— 🎑霜月 (@4m2k_xxx13) June 4, 2019
エドゲインが最も記憶に残る、グロに耐性ある方は是非。犯罪心理学学んだとしても一生理解出来ない
「切り裂きジャック」について総まとめすると…
・切り裂きジャックの正体はDNA鑑定で浮上したアーロン・コスミンスキーの可能性が高い
・ヘンリー王子と結婚したメーガン妃に「切り裂きジャック遠縁説」が浮上し話題となっている
19世紀イギリスを震撼させたシリアルキラー・切り裂きジャックについて総まとめしてきました。
他にさらに大量殺人をしたシリアルキラーがいながら、切り裂きジャックがここまで有名になったのは「Jack the Ripper」というネーミングがキャッチーだったことと、謎が謎を呼ぶ未解決事件だったからだと言われています。
ミトコンドリアDNA鑑定では切り裂きジャックを特定できないと分かった以上、今後確定的な物的証拠が出てくることは難しいと思われるため、永久的に未解決事件となるようです。